問い合わせが来るたびに、作業にかかりそうな時間を数えて見積もりを作る。相手からは「もう少し安くなりませんか」「これも含まれますか」と質問が返ってくる。やり取りを重ねてようやく決まったと思ったら、途中で依頼の範囲が広がっていく。こういう経験のあるフリーランスの方は多いと思います。
この状態がつらいのは、手間がかかるからだけではありません。見積もりが「作業時間」でできている限り、あなたの収入は働いた時間の分で決まります。そしてお客様は、中身ではなく時間や金額で、あなたとほかの人を比べることになります。
結論から言うと、仕事を「何時間でいくら」ではなく、「この状態までを、この金額で」という商品の形にそろえると、見積もりのやり取りが減り、時間の切り売りから一歩抜け出せます。お客様にとっても、何が手に入って総額がいくらかが一目で分かるので、申し込みやすくなります。
この記事では、時間で見積もる形の問題、分かりにくい料金がお客様を迷わせる理由、そして仕事を商品に変える5つの手順を解説します。
時間で見積もると、働いた分しか受け取れない
まず、作業時間で見積もる形の何が問題なのかを整理します。
時間で見積もると、仕事が早くなるほど受け取る額が減ります。腕が上がって半分の時間で終えられるようになっても、見積もりの時間が半分になれば、報酬も半分です。経験を積むほど損をする形になっているわけです。
さらに、お客様の側から見ると、時間の見積もりは中身が分かりにくいものです。「20時間」と書かれても、それで自分に何が手に入るのかは見えません。見えないので、比べられるのは金額だけになり、「もう少し安く」という話になりやすくなります。
時間で受け取る形は、あなたの時間とお客様の予算の両方を、毎回すり減らします。これが「時間の切り売り」の正体です。
分かりにくい料金は、それだけで選ばれない
もう一つ知っておきたいのは、人は「結局いくらかかるのか分からないもの」を避ける、ということです。
基本の料金とは別に、あとから追加の費用がいくつも乗ってくる。いつまで払い続けるのかがはっきりしない。こうした料金の形は、身の回りにもたくさんあります。そして多くの人が、そういう料金に疲れています。
だからこそ、個人の仕事では「分かりやすさ」がそのまま強みになります。
| 分かりにくい見積もり | 分かりやすい商品 |
|---|---|
| 作業時間と単価の掛け算 | 手に入る状態と、その総額 |
| 「修正は別途」「追加は都度お見積もり」 | 含むものと含まないものが、最初から書いてある |
| 途中で範囲が広がりやすい | 範囲が決まっているので、広がったら別の商品として話せる |
| 金額で比べられる | 中身で比べてもらえる |
「全部込みで、この金額です。追加の費用はかかりません」と言い切れる商品は、それだけで選ばれやすくなります。 同じ仕事をしている人の多くが時間で見積もっている分野ほど、この差は大きくなります。
仕事を商品に変える5つの手順
では、どうやって時間の見積もりを商品の形に変えるのか。私は次の5つの手順で考えます。
- お客様が手に入れる「終わった状態」を一言で決める
- やることを型にそろえ、含むものと含まないものを決める
- 総額を一つの数字で示す
- 対象を絞る
- 何が、いつ、どう届くかを書く
手順1:お客様が手に入れる「終わった状態」を一言で決める
最初に決めるのは、作業の中身ではなく、お客様が最後に手に入れる状態です。「ホームページを5ページ作る」ではなく、「スマホで予約まで完結するお店のホームページができている」。「帳簿を入力する」ではなく、「毎月10日に先月の数字が一枚で見られる」。
人がお金を払うのは、作業そのものではなく、その先で手に入るものです。仕事が早くなる、売上が見える、時間が浮く。手に入るものがはっきりすると、お客様はそれを「費用」ではなく「投資」として考えるようになります。見返りが見える投資には、人はまとまったお金を払います。
手順2:やることを型にそろえ、含むものと含まないものを決める
次に、その状態をつくるためにやることを、毎回同じ手順の型にそろえます。これまでの仕事を振り返ると、依頼ごとに細かい違いはあっても、やっていることの大部分は同じはずです。
型にそろえたら、「この商品に含むもの」と「含まないもの」をはっきり書きます。
- 含むもの:打ち合わせの回数、修正の回数、納品までの期間、納品後の質問の受付期間など
- 含まないもの:型の外になる作業。必要な人には、別の商品や追加の形で案内する
「含まない」と書くのは冷たいことではありません。範囲がはっきりしていると、途中で依頼が広がったときにも、「それは別の商品になります」と気持ちよく話せます。
手順3:総額を一つの数字で示す
型が決まったら、総額を一つの数字で示します。「基本料金+作業時間×単価+諸費用」ではなく、「この状態まで、全部込みでこの金額」。
総額を決めるときは、かかる時間から逆算するのではなく、手順1で決めた「終わった状態」がお客様にとってどれだけの価値があるかから考えます。そのうえで、型の中の作業を続けて無理がないかを確かめます。時間から逆算した価格は、腕が上がるほど下がっていきますが、手に入る状態から決めた価格は、あなたの作業が早くなっても変わりません。早くなった分は、あなたの時間として残ります。
手順4:対象を絞る
4つ目は、誰のための商品かを絞ることです。「どなたでも対応します」と構えると、比べられるのは価格だけになります。
「開業1年目の美容室専用」「一人で経理を回している小さな会社向け」のように対象を絞ると、相手は「これは自分のための商品だ」と感じます。絞った相手の悩みに合わせて型を作れるので、中身もよくなります。対象を絞っても、合う人から見れば選ぶ理由がはっきりするので、申し込みはむしろ集まりやすくなります。
手順5:何が、いつ、どう届くかを書く
最後に、お客様が申し込む前に不安に思うことを、先に書いておきます。料金以外にも、人は「何が届くのか分からない」ことに不安を感じます。
- 何が届くか:完成品の形、ファイルの種類、使い方の説明が付くか
- いつ届くか:申し込みから納品までの期間、途中の確認の時期
- どう連絡を取るか:やり取りの方法、返事の目安
- 終わったあと:質問はいつまで受け付けるか、次に頼めることは何か
こうしたことは、質問されてから答えるのではなく、商品の説明に最初から書いておきます。迷っている人は、分からないことが一つでも残っていると申し込みません。聞かれる前に答えておくことで、やり取りの手間も減ります。
たとえば、経理代行のフリーランスがいたとします
5つの手順を、例に当てはめてみます。小さな会社の帳簿の入力を、毎月の作業時間で請け負っているフリーランスがいたとします。月によって作業時間が変わるので請求額も変わり、お客様からは「今月はなぜ高いのか」と聞かれることがよくあります。
このフリーランスは、仕事を商品の形にそろえることにしました。終わった状態は、「毎月10日に、先月の売上と経費が一枚の表で見られる」。対象は「社長が一人で経理も見ている、従業員数名の会社」に絞ります。
やることは、毎月の入力、表の作成、月1回の短い報告の3つに型をそろえ、請求書の発行代行や税務の相談は「含まないもの」としてはっきり書きました。料金は月の総額を一つの数字で示し、作業時間が多い月も少ない月も同じにします。
こうすると、お客様は毎月の支払いが読めるようになり、「なぜ高いのか」という質問はなくなります。フリーランスの側も、作業が早くなるほど自分の時間が増える形に変わりました。
切り替えるときに気をつけたい3つのこと
商品の形に切り替えるときに、つまずきやすいところも挙げておきます。
1つ目は、「全部込み」の範囲を広げすぎることです。安心してもらいたくて何でも含めると、手間の多いお客様に当たったときに、あなたの時間が足りなくなります。含むものは、型の中で無理なく続けられる範囲にとどめます。
2つ目は、選べる追加の項目を増やしすぎることです。追加の項目が10も20も並ぶと、結局は時間の見積もりと同じように、お客様が総額を計算することになります。追加は数個までに絞ります。
3つ目は、今のお客様に急に切り替えを押し付けることです。今のお客様には、次の契約の区切りで新しい形を案内し、どちらが合うかを一緒に考えます。新しいお客様から先に、商品の形で受けていけば無理がありません。
型にした商品は、次の一歩の土台になる
最後に、仕事を商品の形にそろえることの、もう一つの利点を書いておきます。
型にそろえるということは、あなたの仕事の手順が言葉になっている、ということです。言葉になった手順は、人に任せることもできますし、やり方そのものを教える講座にすることもできます。時間で請け負っていたときには頭の中にしかなかったものが、渡せる形になるわけです。
私も独立したばかりのころ、一番欲しかったのは「これをこの順番でやればいい」という手順でした。お客様も同じです。何をしてもらえて、どの順番で進み、最後にどうなるのかが分かる商品は、安心して選べます。そしてその手順は、あなたが時間の切り売りから抜けるための道具にもなります。
時給を上げる工夫に限界がある理由は、時給を上げるための努力をやめる話で書いています。商品をいくつかの段階に分けて見せる方法は、選ばれるオファー一覧表の作り方が参考になります。手厚い個別の支援を商品にするときは、高額商品を設計する9つの項目もあわせて読んでみてください。
まとめ
- 作業時間で見積もると、腕が上がるほど受け取る額が減り、お客様には中身が見えず金額で比べられる
- 分かりにくい料金は、それだけで避けられる。「全部込みでこの金額」と言える商品は選ばれやすい
- お客様が手に入れる状態を一言で決め、やることを型にそろえて、含むものと含まないものを書く
- 総額は時間からではなく、手に入る状態の価値から決め、一つの数字で示す
- 対象を絞り、何が・いつ・どう届くかを先に書く。型にした手順は、人に任せたり教えたりする土台になる
まずは、この1年で一番多かった依頼を一つ選び、「お客様が最後に手に入れた状態」を一言で書いてみてください。その一言が、あなたの最初の商品の名前の候補になります。


