自分の知識を講座にしようと決めたとき、多くの方が最初に思い描くのは「この分野のことなら、これ1つで全部わかる」という講座です。基礎から応用まで、よくある悩みも全部入れて、何十回分もの内容にする。どうせ作るなら、決定版にしたいですよね。
ところが、この考え方で作り始めた講座ほど、途中で止まります。10回分、20回分と作っていくうちに、終わりが見えなくなる。完成しても、思ったほど申し込みが来ない。そして、かけた時間の大きさに気持ちが折れてしまう。
結論から言うと、講座には「広く全部を教える網羅型」と「1つの悩みに絞る絞り込み型」の2つの形があり、少人数で売っていく個人が最初に作るべきなのは、多くの場合、絞り込み型です。網羅型が悪いわけではありません。ただ、求められる準備と体力がまったくちがうんです。
この記事では、2つの型のちがい、それぞれの得失、最初の講座の大きさを決める4つの基準、そして2つを組み合わせて使う考え方を解説します。
講座には「網羅型」と「絞り込み型」がある
まず、2つの型を整理しておきます。
| 網羅型 | 絞り込み型 | |
|---|---|---|
| 中身 | 1つの分野を、入門から応用まで全部 | 分野の中の1つの悩み、1つの目的だけ |
| 量 | 多い。回数も時間も長い | 少ない。短い時間でも成り立つ |
| 相手 | その分野を学びたい人、広く | 特定の場面で困っている人、狭く |
| 価格の考え方 | 量に対する「お得さ」で選ばれる | 悩みが解けることの「切実さ」で選ばれる |
| 作る手間 | とても大きい | 小さい |
たとえば、写真の撮り方を教える人なら、「カメラの基本操作から、構図、光の読み方、編集まで全部」が網羅型です。一方、「子どもの運動会で、走っている姿をぶれずに撮る方法」だけを教えるのが絞り込み型です。
同じ知識を持っていても、どちらの形で出すかで、作る手間も、来てくれる人も、選ばれ方も変わります。
網羅型は、完成まで持ちこたえられる人向け
網羅型には、はっきりした強みがあります。量が多いので、買う側から見るとお得に見えます。同じくらいの値段なら、10回分の講座より100回分の講座に心が動く人は多いでしょう。多くの人に選ばれれば、長く売れ続ける商品になることもあります。
ただ、その裏には3つの重さがあります。
- 作る手間がとても大きい:話す時間の何倍もの準備と編集の時間がかかる。完成前に力尽きる人が多い
- 売れなかったときの痛手が大きい:何か月もかけたものに申し込みがないと、時間も気持ちも一度に失う
- 相手が強い:同じ分野の網羅型は、会社やチームで作られたものと比べられる
特に3つ目は見落とされがちです。網羅型は「全部入っていること」が売りなので、もっと量が多く、もっと作りの整ったものが出てくると、比べられて負けやすい。一人で作る個人には、正面から戦うのが難しい土俵です。
網羅型を選ぶなら、長い制作期間を持ちこたえる時間と、売れなくても続けられる余裕が必要です。それがそろっていないうちは、無理に目指さなくていいと私は考えています。
絞り込み型は、少人数で売る個人と相性がいい
絞り込み型の強みは、網羅型の弱みの裏返しです。
- 作る手間が小さい:テーマが狭いので、短い時間の内容でも講座として成り立つ
- 入門の説明を省ける:特定の悩みを持つ人は、基本はもう知っていることが多い。いきなり本題から入れる
- 相手の顔がはっきり見える:「運動会で子どもを撮りたい親」のように、誰に向けた講座かが明確なので、言葉がぶれない
- 値段で比べられにくい:悩みが具体的で切実なほど、「これが解けるなら」と選ばれる
量で選ばれる網羅型に対して、絞り込み型は「自分のための講座だ」と感じてもらえるかどうかで選ばれます。 大勢に広く知られていなくても、その悩みを持つ人に確実に届けば売れる。少人数でも売上は作れる、という考え方と相性がいいのはこのためです。
ライバルの少ない狭い市場で一番になる考え方は、ニッチ市場で頂点を取る方法でも書いています。
絞り込み型で失敗する、たった1つの条件
ただし、絞り込み型には外してはいけない前提があります。それは、そのテーマに「困っている人が実際にいること」です。
よくある失敗は、自分の得意なことを2つ掛け合わせて、「ほかに誰もやっていないから売れるはずだ」と考えてしまうことです。たとえば、「ヨガも好きで、家計管理も得意だから、ヨガ好きのための家計管理講座」。組み合わせとしては珍しいですが、それを必要としている人がいなければ、誰にも見つけてもらえません。
絞り込むときの出発点は、自分の得意の組み合わせではなく、相手の悩みです。「この場面で、こういうことに困っている人がいる」と言える状態から絞り込んでください。
最初の講座の大きさを決める4つの基準
では、自分の最初の講座をどちらの形にするか。次の4つの問いに答えてみてください。
- 完成までの時間を確保できるか:網羅型に必要な何か月もの制作時間を、今の生活の中で取れるか
- 誰の、どんな悩みかを一文で言えるか:「〇〇な人の、△△という悩み」と言えるなら、絞り込み型が作れる
- すでに声が届いているか:「ここが分からない」「これだけ教えてほしい」と聞かれていることがあるか
- 売れなくても立て直せるか:申し込みがなかったとき、作り直す余力が残るか
1と4に自信がなく、2と3に答えられるなら、迷わず絞り込み型から始めるのがおすすめです。反対に、1と4に余裕があり、その分野を体系的に教えた経験があるなら、網羅型に挑む選択もあります。
ここで大事なのは、最初の講座で「全部」を渡そうとしないことです。講座で渡すのは、受講した人が小さな成果を出せるところまで。そう割り切ると、中身は自然と絞られます。講座で渡す成果の分け方は、「小さな成果」と「大きな成果」を分けるWHAT設計で詳しく解説しています。
たとえば、話し方を教える人がいたとします
例で考えてみます。人前で話すことが得意で、話し方を教えたい人がいたとします。最初に考えたのは、発声、話の組み立て、緊張の抑え方、オンラインでの話し方まで全部入った講座でした。
4つの問いに答えてみると、平日は本業があって制作時間が取れず、売れなかったときに作り直す余裕もない。一方で、知り合いから「オンライン会議で自己紹介をすると頭が真っ白になる」という相談を何度も受けていました。
そこで、「オンライン会議の自己紹介で、頭が真っ白にならない話し方」に絞った講座にします。これなら短い期間で作れて、相談してくれた人たちにすぐ届けられます。反応を見ながら直すこともできます。全部入りの講座は、そのあとでも遅くありません。
講座の大きさで、やりがちな3つの失敗
大きさを決めるときに、よく見かける失敗も挙げておきます。
- 不安から量を足してしまう:「これだけで値段に見合うだろうか」と心配になり、関係の薄い内容まで入れてしまう。量が増えるほど、受講する人は何から手をつければいいか分からなくなります。足したくなったら、「この悩みを解くのに、本当に要るか」と一度問い直します
- 絞り込んだのに、説明が入門から始まる:せっかく相手を絞ったのに、基本の説明から入ってしまう。絞り込み型の相手は、基本はもう知っている人です。いきなり本題から入った方が喜ばれます
- 絞り込みすぎて、自分しか分からない言葉になる:狭くしようとするあまり、講座名が専門用語だらけになる。困っている人が普段使う言葉で、悩みを言い表せているかを確かめます
どれも、講座を作る側の都合で大きさを決めたときに起きます。大きさを決めるのは、いつも相手の悩みです。そう考えると、足すか削るかで迷ったときの答えが出しやすくなります。
網羅型と絞り込み型は、組み合わせて使える
2つの型は、どちらか一方を選んで終わりではありません。役割を分けて、組み合わせることもできます。
よく知られているのは、広い内容の講座を入口にして、学んだ人の中から「この部分をもっと深く知りたい」という人に、絞り込んだ講座を届ける形です。広い講座で多くの人に知ってもらい、深い悩みを持つ人に、専門的な講座を案内する。入口の商品と本命の商品を分ける考え方そのものです。
一方、少人数で売る個人には、逆の順番も合います。
- まず絞り込み型を1本作り、困っている人に届けて、成果と声を集める
- 同じ分野で絞り込み型を2本、3本と増やす
- たまった絞り込み型をつなげて、あとから網羅型にまとめる
先ほどの話し方の例なら、「自己紹介で頭が真っ白にならない話し方」の次に、「オンライン会議で意見を短く伝える話し方」「少人数の説明会で質問に答える話し方」と、困りごとごとに1本ずつ増やしていきます。3本、4本とたまったところで、それをつないで「オンラインで話すことの基本講座」として出し直す。中身はすでに売れたものの集まりなので、一から作る網羅型より、ずっと手堅くなります。
この順番なら、最初から何か月も作り込む必要がありません。1本ずつ売れることを確かめながら進めるので、売れなかったときの痛手も小さく済みます。そして、あとからまとめた網羅型は、実際に受講した人の質問や声を反映した、中身の厚いものになります。
どちらの順番でも共通しているのは、商品ごとに役割を決めておくことです。入口として知ってもらうための講座なのか、深い悩みを解くための本命なのか。役割が決まれば、中身の量も値段も決めやすくなります。本命の商品の役割と段階の分け方は、バックエンド商品の3段階のラインナップで書いています。
まとめ
- 講座には、広く全部を教える網羅型と、1つの悩みに絞る絞り込み型がある
- 網羅型は、作る手間・売れなかったときの痛手・強い相手という3つの重さを背負う
- 絞り込み型は、手間が小さく、相手が明確で、切実さで選ばれる。ただし困っている人がいることが前提
- 制作時間・一文で言える悩み・届いている声・立て直す余力の4つで、最初の大きさを決める
- 絞り込み型を積み上げてから網羅型にまとめる順番なら、少人数でも無理なく広げられる
まずは、あなたが教えたいことを「〇〇な人の、△△という悩みを解く講座」という一文に書き直してみてください。一文にできたら、それが最初の講座の大きさです。


