原稿を書き上げた。表紙の準備も進んでいる。あとは題名を決めるだけ。そこで多くの方が、「印象に残る、かっこいい題名」を考え始めます。
短くて、少し詩的で、読んだ人がハッとするような言葉。気持ちはよく分かります。自分の本ですから、きれいな名前をつけてあげたいですよね。
ただ、Kindle本の場合、その題名がいちばんの壁になることがあります。どれだけ中身が良くても、探している人の検索結果に出てこなければ、その本はないのと同じだからです。
結論から言うと、Kindle本の題名は「センス」ではなく「言葉選びの手順」で決めるものです。買う人が実際に検索窓に打ち込む言葉を集め、それを題名・副題・説明文に振り分ける。この順番を守れば、文章に自信がない人でも、見つけてもらえる題名が作れます。
この記事では、Amazonの検索候補から言葉を拾う方法、題名と副題への入れ方、そして説明文を3つの問いで組み立てる方法を、例を使って解説します。
Amazonは本屋ではなく「検索の場所」です
まず、前提を一つそろえておきます。Amazonは本がずらりと並ぶ本屋さんのように見えますが、使われ方はまったく違います。
本屋さんでは、なんとなく棚を眺めて、目に留まった本を手に取ることがありますよね。ところがAmazonで本を探す人の多くは、最初に検索窓へ言葉を打ち込みます。「何か面白い本はないかな」ではなく、「自分のこの悩みを解決する本はどれか」を探しに来ているのです。
つまり、Amazonの中の本は、日用品や家電と同じように「検索されて、見つかって、選ばれる」商品です。検索で見つからない本は、倉庫の奥にしまわれた本と同じだと考えてください。
かっこいい題名が見つからない理由
たとえば、片付けの本を書いた人がいたとします。題名は「余白のある暮らし」。響きはきれいです。
でも、片付けに悩んでいる人が検索窓に打つのは「片付け」「収納」「捨てられない」といった言葉でしょう。「余白」と打つ人はほとんどいません。しかも、検索結果にたまたま出てきたとしても、題名だけでは何の本なのかが伝わりません。インテリアの本なのか、時間術の本なのか、心の持ち方の本なのか、読む側が迷ってしまいます。
すでに名前が知られている著者なら、短い題名でも「あの人の新刊だ」と手に取ってもらえます。けれど、これから1冊目を出す個人は事情が違います。題名そのものが、検索で見つかるための入口であり、中身を説明する看板でもあるのです。
検索窓の候補は「買う人が使う言葉」です
では、どんな言葉を題名に入れればいいのか。ここで役に立つのが、Amazonの検索窓に言葉を入れたときに下に出てくる候補(サジェスト)です。
候補に出てくる言葉は、実際に多くの人がその組み合わせで検索している言葉です。しかもAmazonで検索している人は、調べものをしたい人というより、買うものを探している人です。一般の検索エンジンで出てくる言葉より、「買うつもりの人の言葉」に近いと考えられます。
もう一つ大事なのは、候補の言葉は「読者自身の言い方」だということです。書き手は、つい専門用語や自分の業界の言い方で考えてしまいます。たとえば書き手が「時短調理」と呼んでいるものを、読者は「作り置き」「ズボラ」と呼んでいるかもしれません。この言い方のズレは、題名だけでなく、本文や発信全体に響きます。
見込み客の言い方に合わせる考え方は、見込み客が普段使う言葉に言い換える顧客情報の整理でも詳しく書いています。
候補の拾い方
手順はシンプルです。
- Amazonの検索窓の対象を「本」や「Kindleストア」に切り替える
- 本のテーマの中心になる言葉を1つ入れる(例:「作り置き」)
- 出てきた候補を、そのまま全部メモする
- 気になる候補をもう一度検索窓に入れて、さらに出てくる候補をメモする
- 「中心の言葉+ひらがな1文字」(例:「作り置き あ」「作り置き か」)でも試してみる
5番目は、候補を広げるちょっとした工夫です。自分では思いつかなかった言葉の組み合わせが出てくることがあります。
なお、テーマそのものに需要があるかどうかの確かめ方は、Kindle本のテーマを決める前に確かめる3つの質問にまとめています。この記事では、テーマが決まったあとの「言葉選び」に絞ってお話しします。
言葉を7〜10個に絞って、題名・副題・説明文に振り分けます
候補をメモしていくと、数十個の言葉が集まるはずです。全部を使う必要はありません。自分の本の中身に本当に合っている言葉を、7〜10個に絞ります。
絞るときの基準は3つです。
- 本の中で、その言葉にきちんと答えているか
- 自分が届けたい読者が使いそうな言葉か
- 似た言葉が重なっていないか(「簡単」と「かんたん」など)
例:作り置きの本で考えてみる
たとえば、共働きの家庭に向けて、作り置きの本を書く人がいたとします。検索候補を調べて、こんな言葉が集まったとしましょう(あくまで説明のための例です)。
作り置き/1週間/献立/冷凍/お弁当/簡単/共働き/時短/節約
この9個を、次のように振り分けます。
| 置き場所 | 役割 | 入れる言葉 |
|---|---|---|
| 題名 | 中心の言葉。何の本か一目で分かる | 作り置き、1週間、献立 |
| 副題 | 誰のための本か、どうなれるかを補う | 共働き、冷凍、お弁当、時短 |
| 説明文 | 入りきらなかった言葉を、文の中で使う | 簡単、節約 |
組み合わせると、たとえばこうなります。
- 題名:「1週間の作り置き献立」
- 副題:「共働きでも続く、週末にまとめて作って冷凍するだけで平日の夕食とお弁当がそろう時短のコツ」
長いと感じたかもしれません。でも、Kindle本の題名は短くなければいけない、という決まりはありません。大事なのは、読んだ人が「まさにこれを探していた」と思えるかどうかです。
詰め込みすぎない
ここで気をつけたいのが、言葉の詰め込みすぎです。集めた言葉を全部題名に入れようとすると、「作り置き 1週間 献立 冷凍 簡単 時短 節約 共働き お弁当」のような、ただの単語の羅列になってしまいます。
これでは読んで意味が分かりませんし、売るための小細工に見えて、かえって信頼を落とします。目安は、題名に中心の言葉を2〜3個、副題に3〜4個。声に出して読んだときに、自然な一文になっているかで確かめてください。
入りきらなかった言葉は、捨てずに説明文へ回します。また、出版の登録をするときには、検索用の言葉を入力する欄もあります。入力できる数や書き方の決まりは変わることがあるので、公式の案内で最新の条件を確かめてください。
説明文は「誰の・どんな悩みを・どう解決するか」に答えて書きます
題名で見つけてもらえたら、次に読まれるのが説明文です。Kindle本は、手に取って中身をパラパラめくることができません。読者は、表紙、題名、試し読み、そして説明文を見て、買うかどうかを決めます。説明文は、本の販売ページそのものだと考えてください。
ところが説明文で多くの人がやってしまうのが、目次をなぞるように「この本には何が書いてあるか」を並べることです。第1章では〇〇、第2章では〇〇……。これでは、読者は「それで、自分はどうなれるの?」という問いの答えを見つけられません。
説明文は、次の3つの問いに順番に答えるように書きます。
- 誰の:どんな状況の人に向けた本か
- どんな悩みを:その人が今、何に困っているか
- どう解決するか:この本を読むと、何ができるようになり、どう変わるか
例:作り置きの本の説明文
先ほどの作り置きの本なら、たとえばこんな説明文になります。
仕事から帰って冷蔵庫を開け、そのまま立ち尽くしてしまう。献立を考える気力も残っていない。そんな共働きの家庭のための本です。
平日に料理の時間が取れないのは、手際が悪いからではありません。毎日その場で献立を決めて、毎日一から作っているからです。
この本では、週末にまとめて作って冷凍し、平日は温めて組み合わせるだけの1週間の献立の組み方を紹介します。外食や買い食いが減るので、節約にもつながります。
・買い物リストから逆算する、簡単な献立の決め方
・冷凍しても味が落ちにくいおかずの選び方
・夕食の残りをお弁当に回す組み合わせ方
1段落目が「誰の」、2段落目が「どんな悩みを」、3段落目以降が「どう解決するか」です。題名に入りきらなかった「節約」「簡単」も、文の流れの中で自然に使っています。
説明文を書くときの3つの注意
- 題名・表紙と食い違わせない:題名で「作り置き」と言っているのに、説明文が料理全般の話になっていると、読者は不安になります。題名と同じ言葉を使い、同じ約束をくり返します
- 大事なことは冒頭に置く:説明文は長くなると途中で折りたたまれ、続きはひと手間かけないと読めません。誰の、どんな悩みかは、最初の数行で伝えます
- 言葉を不自然にくり返さない:検索を意識して同じ言葉を何度も入れると、読者にも見抜かれます。説明文に載せてはいけない内容は公式の案内で決められているので、出版前に確かめてください
「どう解決するか」を書くときは、本の中身の説明ではなく、読んだあとの読者の暮らしを書くのがコツです。この考え方は、講座やサービスの販売ページと同じです。詳しくは販売サイトの魅力=商品の魅力で書いています。
題名を決めたら、読者の目で見直します
言葉を振り分けて題名と説明文の案ができたら、最後に一度、自分が書き手であることを忘れて見直してみてください。
題名の案は複数出してから選ぶ
題名は、最初から1つに決めないほうがうまくいきます。同じ言葉の組み合わせでも、何を前に出すかで印象が変わるからです。
- 結果を前に出す:「平日の夕食が10分で並ぶ、1週間の作り置き献立」
- 読者を前に出す:「共働き家庭のための1週間の作り置き献立」
- つまずきを前に出す:「作り置きが続かない人のための、冷凍で回す1週間の献立」
こうして5〜10案ほど書き出したら、「自分が読者で、検索結果にこれが並んでいたら、どれを開くか」で選びます。迷った場合は、選ばなかった案の言い回しを副題に生かすこともできます。
見直しのチェックポイント
- 中心の言葉が、題名の前のほうに入っているか
- 題名だけで、何の本か分かるか
- 副題で、誰のための本か、どうなれるかが分かるか
- 声に出して読んで、自然な日本語になっているか
- 説明文の最初の数行で、読者が「自分のための本だ」と分かるか
- 題名・副題・説明文で、約束していることが食い違っていないか
言葉は出版後も見直していい
検索候補は時期によって変わります。出版したあとも、ときどき検索窓に中心の言葉を入れて、新しい候補が出ていないかを見てみてください。より読者に合う言葉が見つかったら、説明文などを直していけばいいのです。
集めた言葉は、本だけでなく、ブログの記事やSNSの発信にもそのまま使えます。読者の言葉を手元に持っておくことは、1冊の本を出す以上の財産になります。
題名で約束したことを、中身で果たす
最後に、大切なことを一つお伝えします。題名の言葉選びは、表面だけのテクニックではありません。
検索候補を調べると、「読者がどんな言葉で、何に困っているか」が見えてきます。題名に「共働き」と入れるなら、本の中身も共働きの家庭の事情に答えている必要があります。題名で約束したことを、中身で果たす。この一致があるから、読んだ人が満足し、次の読者にも選ばれていきます。
そのためにも、題名を考える前に、本が「誰を助け、何を約束するのか」を1文で決めておくと迷いません。その決め方は、読者が本を買う理由を5つ用意し、1文のコンセプトで軸をぶらさない方法で解説しています。
売り込みの言葉で飾らなくても、読者の言葉で書かれた題名は、必要な人のところにきちんと届きます。私が大切にしている「売り込まずに売れる」は、本の題名でも同じです。
まとめ
- Amazonは本屋ではなく検索の場所。検索で見つからない本は、ないのと同じ
- 検索窓の候補は、買う人が実際に使う言葉。ここから言葉を集める
- 言葉は7〜10個に絞り、題名・副題・説明文に振り分ける。詰め込みすぎない
- 説明文は「誰の・どんな悩みを・どう解決するか」の順に書く
- 題名の案は複数出し、読者の目で選ぶ
まずは今日、あなたの本のテーマの中心になる言葉を1つ、Amazonの検索窓に入れてみてください。出てきた候補をメモするところから、題名づくりは始まります。


