講座の動画を撮ろうとすると、最初に迷うのが「原稿をどこまで書くか」です。何も書かずに話すと、言い忘れや言葉に詰まるのが怖い。かといって、全部書いて読むと、なんだか不自然になる気がする。そんな迷いを持ったまま、撮影の日が近づいてくる方が多いです。
実際、全文の原稿を用意して読み上げた動画を見返して、「自分なのに、誰か別の人が話しているみたいだ」と感じた経験がある方もいるのではないでしょうか。
結論から言うと、原稿は「全部書く」か「書かない」かの二択ではありません。講座の中身と、その講座の先に何をつなげたいかで、全文・要点・組み合わせの3つから選びます。多くの講師やコーチにとって一番使いやすいのは、要点メモを軸にして、正確さが要るところだけ文章で書く組み合わせの形です。
この記事では、全文の原稿と要点メモのそれぞれの良さと弱点、選ぶための3つの基準、要点メモの作り方、そして撮り直しを減らす収録の段取りを順番に解説します。
原稿の書き方で、伝わる「人柄」が変わる
まず、なぜ原稿の書き方がそこまで大事なのかを整理しておきます。
講座を選ぶ人は、中身だけを見ているわけではありません。同じようなテーマの講座がいくつもある中で、最後に決め手になるのは「この人から教わりたい」という気持ちです。そしてその気持ちは、話す速さ、言葉の選び方、楽しそうに話しているかどうかといった、話し方からも伝わります。
原稿をどこまで書くかは、この話し方に一番大きく影響します。文章を読み上げると、どうしても書き言葉の調子になり、声の抑揚が減ります。反対に、要点だけを見て自分の言葉で話すと、言葉は多少乱れても、熱や人柄はそのまま伝わります。
つまり、原稿の書き方は準備の手間の話ではなく、「受講者にどんな講師だと感じてもらうか」を決める選択です。
全文の原稿と要点メモ、それぞれの良さと弱点
2つのやり方を比べると、次のようになります。
| やり方 | 良いところ | 弱いところ |
|---|---|---|
| 全文の原稿 | 言い忘れや脱線がない。話す長さがそろう。原稿をそのまま文字の教材や記事に使える | 読み上げ調になりやすい。原稿に目を落とすたびに、視線がカメラから外れる。書く時間がかかる |
| 要点メモ | 自分の言葉で話せるので、人柄や熱が伝わる。書く時間が短く、撮り始めるまでが早い | 言葉に詰まったり、言い忘れたりしやすい。言い直しが増えて、あとで切る手間がかかる |
全文の原稿の弱点のうち、見落とされやすいのが視線です。手元の原稿を読むたびに目線が下がると、見ている人は「こちらを向いてくれていない」と感じます。画面に資料を映す動画ならまだ目立ちませんが、顔を映して話す場面では、思った以上に気になります。
一方、要点メモの弱点は、準備と段取りである程度ふせげます。言い忘れは、メモの項目を話し終えるたびに目で確かめれば減らせます。言葉に詰まったら、少し間を置いてその文から言い直し、あとで切ればいい。弱点を段取りで補えるのは、要点メモの方です。
原稿の書き方を選ぶ3つの基準
どちらを選ぶかは、次の3つで決めます。
- 一字一句の正確さが要る中身か
- 講座の先に、あなた自身の関わりを売りたいか
- 原稿を、動画以外にも使いたいか
1つ目は、中身の性質です。操作の手順、数字や用語の定義、法律や決まりごとの説明など、言い間違えると受講者が困る部分は、文章で書いておいた方が安全です。反対に、考え方や心構え、判断のしかたを伝える部分は、自分の言葉で話した方が伝わります。
2つ目は、講座の先の目的です。講座を入口にして、個別のサポートやコンサルなど、あなた自身が関わる商品につなげたいなら、人柄が伝わる話し方を優先します。受講者が次の商品を選ぶ理由は、「この人にお願いしたい」だからです。講座の先の商品の考え方は、バックエンド商品の3段階のラインナップで詳しく書いています。
3つ目は、原稿の使い道です。動画の内容を、あとで文字の教材やブログ記事、メールにも使いたいなら、全文の原稿には大きな価値があります。ただしこの場合も、「原稿を読む」必要はありません。要点メモで話した動画を文字に起こして整える、という順番でも、同じものが手に入ります。
3つの基準を並べると、多くの講師やコーチは次の形に落ち着きます。
| 部分 | 書き方 |
|---|---|
| 手順・数字・用語の定義 | 文章で書いておき、画面にも文字で出す |
| 考え方・判断のしかた・体験の話 | 要点メモだけで、自分の言葉で話す |
| 始まりと終わりの一言 | 短い文で書いておく |
これが「組み合わせ」の形です。正確さが要るところは文字の力を借り、伝えたいところは声の力を借ります。
要点メモの作り方
組み合わせの形で撮るときの、要点メモの作り方を紹介します。
- その動画で伝えることを、1行で書く
- 話す順番に、見出しを3〜5つ並べる
- 見出しごとに、具体例を1つだけ書き添える
- 正確さが要る部分だけ、文章で書いて画面の資料に入れる
- 最初の一言と、最後にしてほしい行動を短い文で書く
- 一度声に出して話し、詰まったところのメモを足す
1つ目の「1行」が書けないときは、動画に話題が2つ以上入っています。先に動画を分けてください。
3つ目の具体例は、話の流れを思い出すための手がかりです。見出しだけだと、話しているうちに抽象的な話が続いてしまいます。「ここでは〇〇の例を話す」と書いておくだけで、話が具体的になります。
5つ目は、始まりと終わりだけは決めておく、という工夫です。話し始めの一言が決まっていないと、「えーと、今回は」と間延びした入り方になりがちです。終わりも同じで、最後にしてほしい行動を決めておけば、話がきれいに着地します。
要点メモは、画面に映す資料の見出しと同じにしておくと、目線を大きく動かさずに済みます。資料そのものが、あなたの要点メモになるわけです。セミナーの台本の組み立て方は、セミナー台本の11要素と直し方も参考になると思います。
たとえば、家計簿のつけ方を教える人がいたとします
イメージしやすいように、例を出してみます。家計簿のつけ方を教える講座を作っている人がいたとします。最初は全文の原稿を書いて読み上げていましたが、見返すと声が一本調子で、本人も「自分らしくない」と感じていました。
そこで、中身を分けてみます。家計簿の項目の分け方や、表の入力のしかたは、言い間違えると受講者が困るので、文章で書いて画面にも出す。一方、「なぜ細かく記録しすぎると続かないのか」という考え方の部分は、見出しと例だけのメモにして、自分の言葉で話す。
撮り直した動画では、手順の部分は正確なまま、考え方の部分で本人の声が生き生きとするようになりました。原稿を書く時間も、全文のころより短くなっています。
原稿でやりがちな3つの失敗
組み合わせの形で撮るときにも、つまずきやすいところがあります。
1つ目は、要点メモが結局「全文」に戻ってしまうことです。不安になって、見出しの下に文章をどんどん書き足していくと、気づけば全文の原稿と変わらなくなります。メモに書くのは、見出しと例と、正確さが要る部分だけ。それ以外を書きたくなったら、「これは自分の言葉で話せるはずだ」と一度手を止めてください。
2つ目は、話し言葉と画面の文字が食い違うことです。手順を画面に文字で出しているのに、口では少し違う言い方で説明すると、受講者はどちらを信じればいいか迷います。正確さが要る部分は、画面の文字をそのまま読むか、「画面のとおりです」と一言添えるだけにします。
3つ目は、一度決めた形を講座の途中で変えてしまうことです。前半は全文を読み上げ、後半は要点メモで話す、という講座は、途中で講師の雰囲気が変わったように見えます。最初の数本で形を決めたら、講座の最後まで同じ形で撮ります。どうしても変えたいときは、前半も撮り直すか、章の区切りで変えるようにします。
撮り直しを減らす収録の段取り
最後に、原稿とあわせて整えておきたい収録の段取りを挙げておきます。
- 撮る前に、録画が本当に始まっているかを確かめる:話し終えてから録画されていなかったと気づくのは、一番気持ちが折れる失敗です。撮り始めの数秒を再生して確かめる習慣をつけます
- 1日に撮る本数を詰め込まない:何本も続けて撮ると、後半ほど声に疲れが出て、話し方が単調になります。疲れを感じたら休む。本数より、1本ずつの声の元気さを優先します
- 足りなかった説明は、撮り直さずに足す:撮ったあとで「ここが分かりにくい」と気づいたら、図や画面の画像を編集で差し込めば補えることが多いです
- 顔を出す場面を決めておく:資料を映す動画が中心でも、章の始まりや内容が難しくなるところで顔を見せると、受講者は「一緒に進んでいる」と感じやすくなります
私も独立したばかりのころは、セミナーやZoomライブに苦手意識がありました。だからこそ、カメラの前で緊張する気持ちはよく分かります。原稿を完璧に書けば緊張が消えるわけではありません。むしろ、話す順番と例だけを頭に入れて、目の前の一人に話しかけるつもりで撮る方が、力が抜けます。撮影の機材や手順は、スマホ1台でできるビジネス動画の撮影・編集・公開ガイドでまとめています。
まとめ
- 原稿の書き方は、準備の手間ではなく「どんな講師だと感じてもらうか」を決める選択
- 全文の原稿は正確だが読み上げ調と視線が弱点。要点メモは人柄が伝わり、弱点は段取りで補える
- 選ぶ基準は「一字一句の正確さが要るか」「講座の先に自分の関わりを売りたいか」「原稿を動画以外にも使いたいか」の3つ
- 多くの講師に合うのは、手順や数字は文章で、考え方は要点メモで話す組み合わせの形
- 録画の確認、撮る本数、撮影後の補足、顔を出す場面を決めておくと、撮り直しが減る
まずは、次に撮る動画を1本選んで、「伝えることを1行」「見出しを3つ」「例を1つずつ」だけのメモを作ってみてください。そのメモで一度話してみると、全文の原稿がどこまで必要だったかが見えてきます。


