講座の案内や無料の動画で、「まずは自己紹介と、この講座を作った理由をお話しします」と始める。ところが、いざ書こうとすると手が止まる。人に話せるような劇的な経験もないし、立派な肩書きもない。結局、経歴を箇条書きにして、すぐに本題へ入ってしまう。
そういう方はとても多いです。そして、「自分には語れる話がない」と思い込んでいる方ほど、実は話の材料をたくさん持っています。足りないのは経験ではなく、組み立て方です。
結論から言うと、自分の話は「型」に当てはめて組み立てれば、特別な経歴がなくても伝わる物語になります。物語には、人が昔から引き込まれてきた決まった流れがあります。その流れに、自分の事実を並べ直すだけです。
この記事では、なぜ自分の話が必要なのか、使いやすい6つの型、型の組み合わせ方、材料の探し方、そして信頼を失う語り方までを解説します。
説明より、話の流れの方が伝わる
人は、情報を並べられるより、話の流れで聞いた方が理解しやすく、覚えやすいものです。「〇〇のやり方は3つあります」と言われるより、「以前、こういうことで困っていた時期がありました」と始まった方が、自然と耳が向きますよね。
講座を売る場面で自分の話が役に立つのは、次の3つの理由からです。
- 聞く人が、自分と重ねて考えられる:同じところで困っていた人の話は、「自分のことだ」と感じてもらえる
- 講座の中身に、理由が生まれる:なぜこの講座を作ったのかが分かると、中身への信頼が増す
- 講師の人柄が伝わる:同じようなノウハウを教える人が多い中で、「この人から学びたい」と思ってもらう手がかりになる
ここで一つ、はっきりさせておきたいことがあります。物語は、事実を分かりやすく並べるための道具です。事実を作るための道具ではありません。型を使うのは、本当にあったことを伝わる順番に並べ直すためです。 この線は、最後まで守ります。
自分の話を組み立てる6つの型
使いやすい型は、次の6つです。どれも特別な経歴は必要ありません。
| 型 | 流れ | 向いている人 |
|---|---|---|
| 1. 引き受けた型 | 気が進まなかった → 頼まれた・必要とされた → 引き受けた | 周りから相談されて講座を作った人 |
| 2. 失って立て直した型 | 大事なものを失った → どん底 → 立て直した → その方法を伝える | 失敗や挫折から学んだことがある人 |
| 3. 不利から始めた型 | 足りないものだらけで始めた → 工夫を重ねた → 今がある | お金・人脈・経験が少ない状態から始めた人 |
| 4. 出会いで変わった型 | 困っていた → ある考え方・人・本と出会った → 試した → 変わった | 転機がはっきりしている人 |
| 5. 集めて見つけた型 | 答えを知りたかった → たくさん集めて比べた → 共通点を見つけた | 自分の成果より、調べて学んだ量が多い人 |
| 6. 上がっていく型 | 低いところにいた → 今はここまで来た | 他の型の「行き先」として組み合わせる |
1つずつ、ポイントを説明します。
1. 引き受けた型
最初から「講座を作りたい」と思っていたわけではない。でも、周りから何度も同じことを聞かれるうちに、まとめて伝えた方がいいと思うようになった。こういう流れです。
聞く人は、「売りたくて作った講座」ではなく「必要とされて生まれた講座」だと受け取ります。ただし、「本当はやりたくなかった」を強く言いすぎると、やる気のない人に見えます。ためらった理由は短く、引き受けた理由を具体的に話します。
2. 失って立て直した型
仕事、お金、健康、人間関係。何か大切なものを失い、そこから立て直した経験を語る型です。聞く人の多くは、今まさに何かを失いかけているか、失うのが怖い人です。だからこそ、立て直した道のりに強く引き込まれます。
大事なのは、失ったところで話を終えないことです。どうやって立て直したのか、そこで何を学んだのか。そして、その学びが今の講座の中身になっている、というところまでつなげます。
3. 不利から始めた型
最初は何も持っていなかった、という話です。お金も、人脈も、実績もなかった。それでも工夫を重ねて、今の形にたどり着いた。
この型の強みは、聞く人が「自分もそこからなら始められる」と感じられることです。完璧な経歴の人の話は、すごいとは思っても、自分には関係ないと感じられがちです。足りないものを正直に話すことが、そのまま共感の入口になります。
4. 出会いで変わった型
困っていたときに、ある考え方ややり方に出会い、半信半疑で試してみたら変わった、という流れです。劇的な失敗がなくても使えるので、とても使いやすい型です。
ポイントは、最初は疑っていたことも正直に話すことです。「本当にそんなことで変わるのかと思っていました」という一言があると、聞いている人の疑いと重なり、話を信じてもらいやすくなります。
5. 集めて見つけた型
自分の成果を語る代わりに、答えを探して集めた過程を語る型です。本をたくさん読んだ、うまくいっている人の話をたくさん聞いた、自分の相談者の事例をたくさん見比べた。その中から、共通点を見つけた。
まだ自分の実績が少ない人に向いています。「私がすごい」ではなく「たくさん見比べたら、こういう共通点があった」と話すので、押しつけがましさもありません。ただし、集めた量を大げさに言うのは禁物です。数えていないものを「何百」と言わない。事実の範囲で話します。
6. 上がっていく型
低いところから、今の場所まで上がってきた、という流れです。この型は単独で使うより、2から5の型の「行き先」として組み合わせると力を発揮します。
型は「出発点」と「行き先」で組み合わせる
6つの型は、1つだけを選ぶ必要はありません。多くの場合、出発点の型と、行き先の型を組み合わせます。
- 不利から始めた + 上がっていく:何も持っていなかったところから、今の形になるまで
- 失って立て直した + 出会いで変わった:どん底で、ある考え方に出会い、立て直した
- 引き受けた + 集めて見つけた:頼まれて調べ始め、たくさん見比べて共通点を見つけた
私自身の話でいえば、過労と1,000万円の失敗を経て、仕組みで売る方法を身につけました。これは「失って立て直した型」にあたります。また、独立した初めのころは、何を発信すればいいか分からず、ブログやSNSを続けても、無料相談をしても成約につながりませんでした。当時一番欲しかったのは、「これをこの順番でやればいい」という手順でした。この話は「不利から始めた型」の出発点として使えます。
どちらも、あったことを型の順番に並べているだけです。付け足しはしていません。型に当てはめると、同じ事実でも、聞く人に届く順番になります。
1つの話は、4つの場面で組み立てる
型を選んだら、話を次の4つの場面に分けて書きます。
- はじめの状態:何に困っていたか、何が足りなかったか
- 転機:何が起きたか、誰や何と出会ったか
- 変化:試してみて、何がどう変わったか
- 今につながる学び:その経験から何を学び、それを講座のどこで伝えているか
それぞれの場面を2〜3文で書けば、話し言葉で数分ほどの長さになります。冒頭に置く話としては、これくらいがちょうどいい長さです。長くなりそうなときは、1と2を短くし、3と4を残します。聞く人が一番知りたいのは、変化と、それが自分にどう役立つかだからです。
自分の話の材料を見つける4つの問い
「型は分かったけれど、当てはめる話が思いつかない」という方は、次の問いに答えを書き出してみてください。
- この仕事を始める前、一番困っていたことは何か
- それが変わるきっかけになった出来事・人・考え方は何か
- 始めたとき、足りなかったものは何か
- 同じことを、周りの人から何度も聞かれたことはあるか
1と2に答えられれば「出会いで変わった型」、3に答えられれば「不利から始めた型」、4に答えられれば「引き受けた型」が組めます。どれも、特別な出来事である必要はありません。経験を棚卸しする方法は、経験と知識を商品の材料に変える棚卸し7項目でも詳しく書いています。
たとえば、料理教室を開いている人がいたとします
例を出してみます。共働きの家庭向けに、短い時間で作れる料理を教えている人がいたとします。
この人は最初、「特に語れる話はない」と思っていました。でも問いに答えてみると、子どもが生まれて仕事に戻ったとき、毎晩の食事作りに追われて疲れ切っていたこと。ある日、週末にまとめて下ごしらえをするやり方を知り、試してみたら平日の台所に立つ時間が大きく減ったこと。それを職場の同僚に話したら、何人も「教えてほしい」と言ってきたこと。こうした事実が出てきました。
これは「出会いで変わった型」と「引き受けた型」の組み合わせです。自己紹介を経歴の箇条書きから、この順番の話に変えるだけで、同じ悩みを持つ人に「自分のための教室だ」と感じてもらいやすくなります。
信頼を失う4つの語り方
最後に、物語を使うときに避けたい語り方を挙げておきます。型は強い道具なので、使い方を誤ると逆効果になります。
- 作り話や盛った話をする:物語は人を引き込む力が強い分、あとで事実と違うと分かったときの信頼の落ち方も大きくなります。あったことだけで組み立てます
- 誰かを見返す話を中心にする:「あの人たちを見返すために始めた」という話は、強い動機に見えても、聞く人には攻撃的な人という印象を残しやすいです。悔しさに触れるなら、行動のきっかけとして短く触れる程度にします
- 苦労話が長すぎる:どん底の話を長く続けると、聞く人は疲れてしまいます。出発点は短く、立て直した道のりと学びに時間を使います
- 講座につながらない:感動的な話でも、講座の中身とつながっていなければ、「いい話だった」で終わります。物語の最後は、必ず「だから、この講座ではこれを伝えています」につなげます
自分の話を置く場所としては、無料の動画やセミナーの冒頭が一番使いやすいです。1日目の最初に何を話すかは、Day1「全体像と可能性」の9ステップで書いています。
まとめ
- 自分の話は、説明より伝わりやすく、講座の中身に理由を与え、人柄を伝える手がかりになる
- 物語は事実を並べ直す道具。作り話や盛った話はしない
- 使いやすい型は、引き受けた・失って立て直した・不利から始めた・出会いで変わった・集めて見つけた・上がっていくの6つ
- 型は出発点と行き先で組み合わせる。材料は4つの問いで見つける
- 見返す話を中心にしない、苦労話を長くしない、最後は必ず講座につなげる
まずは、「この仕事を始める前、一番困っていたことは何か」だけを、3行で書き出してみてください。それが、あなたの物語の出発点になります。


