発信を始めようとしたとき、こんなふうに考えて手が止まったことはありませんか。「同じことを言っている人はもうたくさんいる」「自分には誰も知らない新しいノウハウなんてない」「だったら、自分が発信しても意味がないのでは」。
私も独立したばかりの頃は、何を発信すればいいのか分かりませんでした。すごい人がすでに書いていることを、自分がもう一度書く意味が見つからなかったんです。
結論から言うと、発信の価値は「新しさ」だけで決まるわけではありません。多くの人が難しいと感じていることを、誰よりも分かりやすく言い直す。それだけで、読者にとっては十分に価値のある発信になります。読者が求めているのは、見たことのない情報よりも、「やっと分かった」という感覚だからです。
この記事では、分かりにくい発信に共通すること、分かりやすく言い直すための5つの工夫、そして言い直せないときの材料の集め方を解説します。
読者が求めているのは「新しさ」より「分かった」という感覚
少し考えてみてください。あなたが何かを調べるとき、本当に欲しいのは「誰も知らない情報」でしょうか。
多くの場合、そうではないはずです。欲しいのは、自分が今つまずいていることの答えです。そして、その答えはたいてい、どこかにすでに書かれています。それでも人が調べ続けるのは、書かれている説明が難しくて、自分ごととして分からないからです。
専門家にとって当たり前のことほど、初心者にはとても難しく見えます。専門家は、自分がどこでつまずいたかを忘れてしまっているからです。だからこそ、まだ初心者の気持ちを覚えている人が、分かりやすく言い直すことに価値があります。
「分かった」と感じた読者は、その人のことを覚えます。そして、次に困ったときにまた読みに来てくれます。新しい情報を出し続けるより、分かりやすさで選ばれる方が、ずっと再現性のある発信の仕方です。
自分には売れるものがないと感じている方は、経験と知識を商品の種として書き出す方法もあわせて読んでみてください。
分かりにくい発信に共通する4つのこと
では、分かりにくい発信とはどんなものか。原因は文章の才能ではなく、次の4つのどれかに当てはまっていることがほとんどです。
| 分かりにくい発信 | 読者の頭の中で起きていること |
|---|---|
| 専門用語をそのまま使っている | 1つ分からない言葉があると、その先を読む気がなくなる |
| 数字や事実を並べているだけ | それが自分にとって良いのか悪いのか、判断できない |
| 主張だけで、理由がない | 「本当かな」と疑ったまま読み進めることになる |
| 話の順番が、書き手の考えた順 | 知りたいことが後回しにされ、途中で迷子になる |
どれも、書き手が「このくらい分かるだろう」と思ってしまうことから起きています。書き手には分かっているので、自分では気づきにくいんですよね。
逆に言えば、この4つを一つずつ直していくだけで、発信は分かりやすくなります。特別な文章力は要りません。必要なのは、読者のところまで降りていって、もう一度説明し直す手間だけです。
分かりやすく言い直す5つの工夫
ここからは、実際に言い直すときの工夫を5つ紹介します。全部を一度に使う必要はありません。1つの記事で1つか2つ使うだけでも、読み心地は変わります。
工夫1:専門用語を、読者が普段使う言葉に訳す
専門用語を使いたくなったら、「この言葉を、知り合いに口で説明するなら何と言うか」を考えます。どうしても専門用語を使うときは、最初に出てきた場所で一言説明を添えます。
工夫2:数字や事実には「つまり何か」を添える
数字だけを並べても、読者はそれをどう受け取ればいいか分かりません。数字のあとに「つまり、〇〇ということです」と一文足します。数字の意味を決めるのは読者ではなく、書き手の仕事です。
工夫3:関係や違いは、表や図で見せる
「AとBの違い」「手順の流れ」「どれを選べばいいか」といった話は、文章で書くほど分かりにくくなります。比べる話は表に、順番の話は番号付きの箇条書きにするだけで、読者は一目で全体をつかめます。
工夫4:身近なものにたとえる
見えにくい考え方は、読者が毎日目にしているものにたとえると、ぐっと分かりやすくなります。料理、家計、通勤、部屋の片づけなど、誰もが経験していることが良い材料です。
工夫5:主張には、必ず理由をセットにする
「〇〇した方がいいです」と書いたら、すぐあとに「なぜなら〜」を続けます。理由が添えられた主張は、読者が自分で納得できるので、行動につながりやすくなります。 理由がないと、読者は正しさを判断できず、そのまま忘れてしまいます。
たとえば、お金の手続きを教える人がいたとします
イメージしやすいように、例で考えてみます。個人で仕事を始めた人に向けて、確定申告の手続きを教えている人がいたとします。
最初の説明は、こうでした。
「経費として計上できるのは、事業に必要な支出です。家事按分が必要なものもあります。帳簿付けは日々行いましょう」
間違ってはいませんが、始めたばかりの人には、「計上」「家事按分」「帳簿付け」がそれぞれ引っかかります。これを5つの工夫で言い直すと、たとえば次のようになります。
「仕事のために使ったお金は、売上から引いて税金を計算できます。これを経費と言います。自宅で仕事をしている場合、家賃や電気代のうち仕事に使った分だけを経費にできます。たとえば、部屋の半分を仕事場にしているなら、家賃の半分を経費にする、という考え方です。なぜ毎日記録した方がいいかというと、1年分をまとめて思い出そうとすると、ほぼ確実にどこかで記録が抜けるからです」
中身は同じです。新しい情報は一つも足していません。それでも、読み手の「分かった」という感覚は大きく変わります。これが、言い直すことの価値です。
言い直すときにやりがちな3つの失敗
分かりやすくしようとするあまり、次のような失敗が起きることもあります。
- 簡単にしすぎて、中身が不正確になる:たとえや言い換えで、大事な条件や例外が抜け落ちてしまうことがあります。言い直したあとに、元の説明と比べて意味が変わっていないかを確かめます
- 読者を子ども扱いする:「簡単ですよね」「こんなことも知らないと困ります」といった言い方は、読者を遠ざけます。分かりやすさと、見下すことは別物です
- 一度に全部を説明しようとする:分かりやすく書こうとすると、関係する話を全部入れたくなります。でも、説明が長くなるほど読者は迷います。1つの記事で言い直すのは、1つのつまずきに絞ります
特に1つ目には注意してください。分かりやすさは、正確さの上に成り立ちます。言い直した説明に自信がないときは、「詳しい条件は人によって違うので、専門家に確かめてください」と一言添えるだけでも、読者への誠実さが伝わります。
言い直せないときは、材料が足りていない
分かりやすく言い直そうとしても、うまく言葉が出てこないことがあります。そのときは、文章力ではなく、材料が足りていないことを疑ってみてください。
自分の中にない言葉は、どれだけ考えても出てきません。分かりやすく言い直せる人は、そのテーマについて、人より多く読み、人より多く試しています。材料の集め方は、次の3つです。
- 読む:同じテーマの本や記事を何冊も読み、いろいろな説明の仕方に触れる
- 自分で使う:教えていることを、自分でもう一度やってみる。使ってみて初めて分かるつまずきが、一番良い材料になる
- 聞かれたことを書き留める:お客様や読者から受けた質問を、そのままの言葉で記録しておく
特に3つ目は大切です。「ここが分からない」と聞かれた場所こそ、言い直しが必要な場所です。質問を書き留めておくと、どこを丁寧に説明すればいいかが自然に見えてきます。
読む量を増やすときは、分かりやすいと感じた説明に出会ったら、その説明の「どこが分かりやすかったのか」まで書き留めておくのがおすすめです。たとえの使い方なのか、話の順番なのか、表の見せ方なのか。理由まで分かれば、その工夫を自分のテーマにも応用できます。書き写すのではなく、工夫の型だけを借りるイメージです。
難しい話をどの順番で出すかは、セミナーでも同じ考え方です。1日目に難しい話をしないセミナーの組み立て方でも、分かりやすい順番について触れています。
分かりやすさは、まねされにくい強みになる
最後に、分かりやすく言い直すことが、なぜ発信の強みになるのかをお伝えします。
情報そのものは、すぐにまねされます。新しいノウハウを出しても、しばらくすれば同じことを言う人が増えていきます。ところが、分かりやすく伝えるための手間は、簡単にはまねされません。専門用語を一つずつ訳し、数字に意味を添え、表を作り、たとえを探す。どれも時間がかかる、地味な作業だからです。
多くの人がこの手間を省くからこそ、手間をかけた発信は目立ちます。そして、「この人の説明は分かりやすい」という評判は、あなたの講座や個別相談に申し込む理由にもなります。分かりやすい説明を聞いた人は、「この人に教わればできそうだ」と感じるからです。
新しいノウハウを探して手が止まっているなら、まずは自分がよく知っていることを、昔の自分に説明するつもりで書いてみてください。それが、あなたにしか書けない発信の出発点になります。
まとめ
- 読者が求めているのは、新しい情報より「やっと分かった」という感覚
- 分かりにくさの原因は、専門用語・数字の羅列・理由のない主張・書き手目線の順番の4つ
- 言い直す工夫は、読者の言葉に訳す・数字に意味を添える・表や図・たとえ・理由をセットにする、の5つ
- 言い直せないときは、読む・自分で使う・聞かれたことを書き留める、で材料を増やす
- 分かりやすく伝える手間はまねされにくく、選ばれる理由になる
まずは、あなたの発信の中から専門用語を1つ選び、「知り合いに口で説明するなら何と言うか」を一文で書いてみてください。その一文が、次の記事の書き出しになります。


