仕事では頼りにされている。後輩からもよく相談される。それなのに、いざ「自分のやり方を講座にしよう」と思って紙に向かうと、何を書けばいいのか分からなくなる。そんな経験はありませんか。
書き出してみると、教科書に載っているようなことばかりが並ぶ。「これなら本を読めば分かるよな」と思って、手が止まってしまう。専門職の方から、こうした相談をよく受けます。
結論から言うと、講座の価値になるのは教科書に載っている知識ではありません。現場で何年もかけて身につけた「判断」です。 いつ、何を見て、どう決めているのか。本人にとっては当たり前すぎて言葉にしていない部分にこそ、お金を払ってでも知りたい人がいます。
この記事では、仕事ができる人ほど教えるのに苦労する理由と、現場で身につけた専門スキルを分解して講座にする4つの手順を解説します。
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この記事の続きとして、お客様の「今」と「理想」から約束を決め、章立て・台本・教材までをAIと作る手順をまとめました。
講座の価値は「教科書と現場のあいだ」にある
本や教科書に書いてあるとおりにやっても、うまくいかない。仕事をしていれば、誰でも一度は経験することですよね。
理由はシンプルで、教科書に書いてあるのは「何をするか」までだからです。現場では、そのあいだを埋める細かな判断が無数に必要になります。
- 同じ作業でも、どの順番でやると手戻りが少ないか
- どんなサインが出たら、注意して確かめるべきか
- 例外が出たとき、どこまでなら自分で決めてよいか
- 相手に説明するとき、何から話すと伝わりやすいか
こうした判断は、名前がついていないことがほとんどです。「暗黙知」と呼ばれることもありますが、要するに、言葉になっていないコツのことです。
言葉になっていないコツは、時間をかけて一人の中に少しずつたまっていくものなので、外からはなかなか手に入りません。初心者が教科書だけで学ぶと遠回りするのは、この部分が抜けているからです。
だからこそ、ここを言葉にして順番に並べた講座には価値が生まれます。教科書と同じ内容を並べるだけなら、本で足ります。講座に求められているのは、教科書と現場のあいだを埋める判断の部分なのです。
仕事ができる人ほど教えるのに苦労する理由
ところが、この「判断」を持っている人ほど、教えるのに苦労します。
仕事に慣れると、判断の多くは無意識に行われるようになります。考えなくても手が動く。だから本人は「特別なことはしていない」と感じます。初心者が何に迷っているのかも、もう思い出せません。
たとえば、経理の仕事を長く続けてきた人がいたとします。この人は月末の締めを一度も遅らせたことがありません。理由を聞くと、「普通にやっているだけ」と答えます。
ところが、横で見ていると違います。月の半ばに一度、金額の大きい取引だけを先に確かめている。数字が合わないときは、まず日付のずれを疑う。返事が遅い取引先には、締めの数日前に一言だけ声をかけている。どれも本人にとっては当たり前の動きですが、初心者から見れば、どれも「知らなかった」ことです。
うまくいかない原因は、教える力や才能ではありません。無意識になった判断を、もう一度ひとつずつ取り出す手順を踏んでいないだけです。ここからは、その手順を4つに分けて説明します。
手順1:身につけたスキルや気づきを書き出す
最初にやるのは、仕事を通して身につけてきたことを、できるだけたくさん書き出すことです。
このとき、立派なものだけを書こうとしないでください。資格の名前や職種の名前だけでなく、次のような細かいことまで拾っていきます。
| 書き出す観点 | 例 |
|---|---|
| よく頼まれること | 「これ見てもらえますか」と回ってくる仕事 |
| 人より速くできること | 同僚が半日かかる作業を短時間で終える |
| 失敗から学んだこと | 一度やらかして、それ以来必ず確かめていること |
| 後輩によく教えること | 新人が入るたびに同じ説明をしている内容 |
| 自分なりの工夫 | 誰にも教わらず、自分で作った段取りや確認表 |
一人で思い出しにくいときは、身近な同僚や家族に「私が得意なことって何だと思う?」と聞いてみるのも有効です。自分では当たり前すぎて気づけないことを、他の人はよく見ています。
経験を商品の材料として整理する方法は、経験と知識を商品の材料に変える棚卸し7項目でも詳しく解説しています。
手順2:教える中身を1つに絞る
書き出したら、その中から講座にするものを1つに絞ります。
あれもこれも入れたくなりますが、最初の講座は「この講座を受けると、これができるようになる」と一文で言えるくらいに絞ったほうが、作る側も学ぶ側も迷いません。
絞るときは、誰に向けて教えるのかを先に決めると選びやすくなります。方向は大きく2つあります。
- 同じ業界の人に教える:同じ仕事を始めたばかりの人や、これから目指す人に、仕事そのもののやり方を教える
- 別の業界の人に教える:仕事で身につけた段取り・説明の仕方・人のまとめ方などを、まったく別の仕事をしている人に教える
先ほどの経理の人なら、1つ目の方向では「経理を始めたばかりの人が、月末の締めで慌てなくなる段取り」が講座になります。2つ目の方向なら「小さな店を営む人が、帳簿づけを月末にためこまない仕組み」が講座になるかもしれません。同じ経験でも、相手が変わると中身の切り口が変わります。
一つ気をつけてほしいのは、勤め先の内部の情報や、お客様の情報を講座に入れないことです。自分が身につけたやり方を教えるのは問題ありませんが、会社の資料や取引先の事情をそのまま使うのは避けてください。具体例を出すときは、特定の会社や人が分からない形に作り変えます。
手順3:新人に一から教えるつもりで、細かい手順に分解する
テーマを1つに絞ったら、中身を細かい手順に分けていきます。
いきなり講座の目次を作ろうとすると、手が止まりやすいです。そこで、職場に入ったばかりの新人に、このスキルを一から教える場面を思い浮かべてください。その新人が独り立ちするまでに、あなたは何を、どの順番で教えるでしょうか。
分解は、次の流れで進めると楽になります。
- 新人が独り立ちするまでの道のりを、大きく3〜5つのかたまりに区切る
- かたまりごとに、教えることを細かく書き出す
- 書き出した一つひとつに「なぜそうするのか」「どこを見て判断するのか」を書き添える
先ほどの経理の人が「月末の締めで慌てない段取り」を分解すると、たとえば次のようになります。
| かたまり | 教えること | 書き添える判断 |
|---|---|---|
| 締めの全体像 | 月末までに何が集まり、何を確かめるか | どこが遅れると全体が止まるのか |
| 月の半ばの確認 | 金額の大きい取引を先に見る | なぜ大きいものから見るのか |
| 数字が合わないとき | 探す順番を決めておく | まず日付のずれを疑う理由 |
| 取引先とのやりとり | 締め前の一言の声かけ | どの相手に、いつ声をかけるか |
3つ目の列が特に大事です。手順だけを並べると、教科書と同じになってしまいます。「なぜ月の半ばに確かめるのか」「なぜ日付のずれを先に疑うのか」まで書いたとき、はじめてあなたの判断が言葉になります。
大きなかたまりを講座の章としてどう並べるかは、受講者がぶつかる壁から考えると決めやすくなります。その方法は、同じシリーズの「今の姿」と「なりたい姿」の間にある壁から章立てする方法で解説しています。
手順4:初心者がつまずく所を補う
分解した手順ができたら、最後に、初心者がつまずきそうな所を補います。
専門的なスキルは、どうしても話が難しくなりがちです。理屈だけを説明しても、受講者が実際に使えなければ意味がありません。補うときは、次の4つを意識します。
- 言葉:専門用語を、初心者が普段使う言葉に置き換える。どうしても使う用語は、出てきたときに一言で説明する
- 例:抽象的な説明のあとに、具体的な場面を一つ添える。架空の場面でかまいません
- よくある失敗:初心者がやりがちな間違いと、その直し方をセットで見せる
- 手を動かす材料:確認表、手順の一覧、記入用の用紙など、見ながら作業できるものを添える
つまずく所は、自分の頭の中だけで考えると見落とします。可能なら、実際に初心者の人に分解した手順を見せて、「どこで分からなくなったか」を聞いてみてください。説明したつもりの所で、相手が止まることがよくあります。
見込み客が普段どんな言葉を使っているかを知る方法は、見込み客が普段使う言葉に言い換える顧客情報の整理が参考になるはずです。
資格や肩書きがなくても、体験は講座にできる
ここまで専門職の話をしてきましたが、資格や立派な肩書きがないと講座は作れない、ということはありません。
講座を買う人が求めているのは、肩書きではなく「自分が困っていることを、どうすれば乗り越えられるか」です。同じ悩みを実際に乗り越えた人の体験は、それだけで十分な材料になります。
たとえば、引っ越しを何度も経験して、役所の手続きや荷造りの段取りに詳しくなった人がいたとします。資格は何もありません。それでも、初めての引っ越しで何から手をつければいいか分からない人にとっては、この人の段取りはとても役に立ちます。
完全にオリジナルの知識である必要もありません。世の中の知識の多くは、誰かのやり方を学び、自分で試し、組み合わせ直してできています。大事なのは、あなたが実際に試して、うまくいった順番と判断を持っていることです。
一方で、できないことを約束しないことも大切です。資格が必要な業務の代わりになるような内容や、結果を言い切るような内容は避けてください。自分の体験の範囲で、正直に教える。そのほうが、長く信頼される講座になります。
コーチやコンサルタントとして個別に教えている方は、個別セッションの中身を講座に切り出す方法もあります。個別セッションの「共通部分」を切り出す3つの手順をあわせて読んでみてください。
まとめ
- 講座の価値は教科書の知識ではなく、教科書と現場のあいだを埋める「判断」にある
- 仕事ができる人ほど判断が無意識になっているので、取り出す手順が必要になる
- 手順は「書き出す→1つに絞る→新人に教えるつもりで分解する→つまずく所を補う」の4つ
- 分解するときは、手順だけでなく「なぜそうするのか」「どこを見て判断するのか」まで書く
- 資格や肩書きがなくても、実際に乗り越えた体験は講座の材料になる
まずは、職場で新人によく説明していることを、3つだけ紙に書き出してみてください。その3つの中に、あなたにとっては当たり前でも、誰かにとっては知りたかった判断が隠れているはずです。
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