面談の前に、聞きたい質問をリストにしておく。当日はそれを上から順に聞いていく。相手もきちんと答えてくれる。でも、どこか表面的なやりとりのまま時間が過ぎ、提案に入ると「少し考えます」で終わる。
こういう面談は、質問の数が足りないわけではありません。質問どうしがつながっていないのです。一つひとつの答えが、次の質問の足場になっていない。だから、相手の中で問題が深まっていきません。
結論から言うと、面談で決まるかどうかは、価格を見せる場面ではなく、悩みを「深める」段階でほぼ決まります。ここで相手が、自分の問題を「何とかしたほうがいい」から「今、何とかしないといけない」へと、自分の言葉で言い換えられたら、そのあとの提案はとても静かに進みます。
この記事では、相手が自分の問題に一段ずつ気づいていく「質問の階段」の作り方をお伝えします。
深めるときにつかむのは「欲しいもの」と「逃れたいもの」
階段に入る前に、深める段階で何をつかめばいいのかを決めておきます。つかむのは2つだけです。相手が「欲しいもの」と、相手が「逃れたいもの」です。
たとえば、こんな3人がいたとします。
| どんな人か | 欲しいもの | 逃れたいもの |
|---|---|---|
| 整体院を一人で営む50代 | 体を使わない収入、家族との時間 | 自分が倒れたら収入がなくなる不安 |
| 副業でコーチングをする30代の会社員 | 副業で安定した収入、いずれ独立 | 毎晩SNSに時間を使っても成果が出ない状態、自信をなくしていく自分 |
| 料理教室を主宰する40代 | 少人数でも売上が立つ講座の形 | 週末がすべて仕事で消える生活 |
欲しいものは、多くの方が最初から話してくれます。「もっと収入を増やしたいんです」のように、言いやすいからです。
一方で、逃れたいものは、本人もはっきり言葉にしていないことがほとんどです。「自信をなくしていく自分が怖い」とは、初対面の相手にいきなりは言いません。
そして、人が高い買い物を決めるとき、背中を押すのは多くの場合、逃れたいもののほうです。深める段階の質問は、ほとんどが、この逃れたいものを相手自身に見つけてもらうためにあります。この考え方は「失い続けているもの」に気づいてもらう面談の聞き方で詳しく書いています。
欲しいものは、相手が話してくれる。逃れたいものは、質問で一緒に見つける。 この2つを分けて考えるだけで、質問の狙いがはっきりします。
問題に気づいてもらう「質問の階段」7段
深める段階の質問は、次の順番で重ねていきます。私はこれを「質問の階段」と呼んでいます。1段上がるたびに、相手の中で問題の輪郭が少しずつはっきりしていきます。
| 段 | 質問 | 役割 |
|---|---|---|
| 1 | 今・これまで・これから | 背景を聞く。今の状態、そうなった経緯、目指している先 |
| 2 | 今の状態に満足していますか | 問題の入り口。答えによって進み方が分かれる |
| 3 | いつから続いていますか | 問題が一時的なものではないことに気づいてもらう |
| 4 | どんな影響がありますか | 仕事だけでなく、暮らしや気持ちへの影響を言葉にしてもらう |
| 5 | このまま続いたら | 放っておいた先を、本人に想像してもらう |
| 6 | なぜ今なのですか | 変えるのは「いつか」ではなく「今」だと、本人の言葉で確かめる |
| 7 | これまで何をしてきましたか | 解決しようとしてきたことと、その理由を聞く |
大事なのは、売り手が問題を指摘するのではなく、相手が自分で問題に気づくことです。外から「それは問題ですよ」と言われると、人は反発します。自分で気づいた問題は、自分で解決したくなります。階段の一段一段は、そのための足場です。
順番は守り、時間は相手に合わせる
すべての段を、同じ時間で進む必要はありません。相手がすでに問題をはっきり自覚しているなら、背景はさっと聞いて先に進めます。逆に「特に困っていない」という方なら、2段目でじっくり時間を使います。
1段目:今・これまで・これから
最初の段では、相手の背景を3つの時間に分けて聞きます。
- 今:「今の状況は、率直なところ、どんな感じですか」
- これまで:「どういう経緯で、今の形になったのですか」
- これから:「今回申し込んでくださったということは、この先どうなっていきたいと考えていますか」
今を聞くと現状が分かり、これまでを聞くと、過去にうまくいかなかったことや、避けたいことの手がかりが出てきます。これからを聞くと、欲しいものが見えてきます。
この段で気をつけたいのは、答えを評価しないことです。「まだまだですね」のような一言は、どんなに軽く言っても、相手の口を閉ざします。相手の答えには「そうなんですね」「そこまでやってこられたんですね」と受け止める言葉だけを返し、次の質問に進んでください。
面談の前にアンケートを取っているなら、その答えをこの段の材料に使えます。どんな項目を聞いておくとよいかは、セミナー後アンケートの10項目にまとめています。
「満足していますか」の答えで道が分かれる
背景を聞いたら、「今の状態に満足していますか」と聞きます。ここで、答えは大きく2つに分かれます。
「満足していない」と答えた場合
こちらは素直に進めます。「どんなところが一番嫌だと感じますか」と聞き、答えが出たら「ほかにもありますか」と重ねます。
1つで止めず、出てくるだけ出してもらうのがコツです。最初に出てくるのは、たいてい言いやすい不満です。2つ目、3つ目に、本当に困っていることが出てきます。
「満足している」と答えた場合
ここで多くの人が失敗します。がっかりして、「でも、ここは課題じゃないですか」と自分から問題を指摘してしまうのです。その瞬間に、あなたは相談相手から「売り込みに来た人」に戻ります。
満足していると言われたら、まずそれを喜んでください。「それは素晴らしいですね。どんなところに満足されていますか」と聞き、うまくいっている話を十分に聞きます。
十分に聞いたうえで、こう尋ねます。「仮の話でかまわないのですが、あえて1つだけ変えられるとしたら、どこを変えたいですか」。何も困っていない人は、時間を使って面談には来ません。仮の話として聞くと、相手は構えずに本音を話してくれます。
先ほどの料理教室の人なら、こんな流れになります。
あなた:今の料理教室の状態には、満足されていますか。
相手:はい、生徒さんにも恵まれていて、満足しています。
あなた:それは素晴らしいですね。どんなところに一番満足されていますか。
相手:生徒さんが、家で作ってみましたって写真を送ってくれるときですね。
あなた:うれしいですね。ほかにも、うまくいっていると感じるところはありますか。
相手:続けて通ってくださる方が多いことでしょうか。
あなた:それは、レッスンが信頼されている証拠ですね。では、仮の話でかまわないのですが、あえて1つだけ変えられるとしたら、どこを変えたいですか。
相手:うーん……週末が全部レッスンで埋まっていることですかね。子どもの行事にも、ほとんど行けていなくて。
「いつから・どんな影響・このまま続いたら・なぜ今」で深める
どちらの道を通っても、問題が1つ出てきたら、そこから4つの質問で深めていきます。副業でコーチングをしている人との面談で見てみます。
あなた:今の副業の状態には、満足されていますか。
相手:正直、満足はしていないです。
あなた:どんなところが一番嫌だと感じますか。
相手:毎晩SNSを更新しているのに、売上がほとんど増えないところです。
あなた:ほかにもありますか。
相手:……だんだん、自分には向いていないんじゃないかと思うようになってきたことですね。
あなた:そう感じるようになったのは、いつごろからですか。
相手:たぶん、1年くらい前からです。
あなた:1年続いているんですね。そのことは、本業や毎日の暮らしに、どんな影響が出ていますか。
相手:寝る時間が遅くなって、本業の朝がきついです。家族にも、最近ずっとスマホを見ていると言われます。
あなた:もしこのままの状態があと1年続いたら、どうなっていそうですか。
相手:……たぶん、やめていると思います。結局できなかったって、自分に言い訳しながら。
あなた:そうなんですね。では、なぜ今、変えたいと思ったのですか。
相手:来年、子どもが生まれるんです。そうなったら、夜の時間はもう取れない。だから今のうちに、ちゃんと形にしたいんです。
4つの質問には、それぞれ役割があります。
- いつから続いていますか:人は、自分の問題を「最近のこと」と軽く見がちです。期間を口にすると、意外と長く続いていることに本人が気づきます
- どんな影響がありますか:仕事の数字だけでなく、睡眠や家族、気持ちへの影響を聞きます。問題の重さは、ここで初めて見えてきます
- このまま続いたら:放っておいた先を、本人に想像してもらいます。売り手が脅すのではなく、本人が自分で思い描くことが大切です
- なぜ今なのですか:「いつか変えたい」を「今変えたい」に変える質問です。答えには、その人だけの事情が出てきます
この人は最後に「今のうちに、ちゃんと形にしたい」と自分で言いました。売り手は、一度も「早く始めたほうがいいですよ」と言っていません。
「何かが必要だ」という気づきから、「それは今必要だ」という気づきへ。 この2段の変化を本人の言葉で起こすのが、この4つの質問です。少し痛みを伴う質問もありますが、責める口調にはせず、穏やかに、相手のペースで聞いてください。
「これまで何をしてきたか」を聞く理由
階段の最後の段は、「これまで、状況を変えるためにどんなことをしてきましたか」という質問です。あなたが、相手にとって最初にお金や時間を使う相手である可能性は、まずありません。多くの方が、本を読んだり、別の講座を受けたり、自分なりに工夫したりしてきています。
この質問の目的は、相手が何を試したかという情報を集めることではありません。続けて「なぜ、それに取り組んできたのですか」と聞くことで、解決することが本人にとってなぜ大事なのかを、本人に語ってもらうことです。
あなた:これまで、体を使わない収入を作るために、何か取り組んでこられたことはありますか。
相手:本を何冊か読みました。オンライン講座の作り方の本です。動画も少し撮ってみたんですが、途中で止まっています。
あなた:そうなんですね。なぜ、それに取り組もうと思ったのですか。
相手:腰を痛めたときに、自分が倒れたら家族が困るって、本当に怖くなったんです。今の仕事は、私が手を動かさないと収入にならないので。
あなた:もし、その問題が解決したとしたら、毎日はどう変わりそうですか。
相手:施術の数を減らして、週に1日は家族と過ごしたいですね。
あなた:すぐに始められる方法があるとしたら、いつごろから始めたいですか。
相手:できれば、すぐにでも。
ここでは、続けて2つの質問も添えています。「解決したらどう変わるか」と「いつから始めたいか」です。前者で欲しいものがはっきりし、後者で、急ぎたいという気持ちが本人の言葉で確かめられます。
ここまで深まったら、提案に移る準備ができています。ただし、いきなり商品の説明を始めるのではなく、短い一言で橋を架けます。その進め方は「切り替える」から「提案する」へ進む正しい順番に任せます。
深めるときにやってはいけないこと
最後に、深める段階でよく起きる失敗をまとめておきます。どれも、相手が自分で気づくのを邪魔してしまうものです。
- 自分から問題を指摘する。「それは問題ですね」「ここが課題では」と言った瞬間に、相手は身構えます
- 試してきたものを悪く言う。「その本はやり方が古いですね」のように、ほかの講座や本の欠点を指摘する目的で、「これまで何をしてきたか」を聞かない
- 相手の話を、自分の言葉でまとめ直しすぎる。まとめが相手の言葉とずれると、話の焦点が本人の問題から外れます。まとめるなら、相手の言った言葉をそのまま使います
- 問題がはっきりしないまま提案に進む。何に困って、どうなりたいのかが分からない状態で、商品の話をしない
- 不安をあおる。「このままだと大変なことになりますよ」と売り手が言うのは、深めるのではなく脅すことです。想像するのは、あくまで本人です
- 時間が足りないからと急ぐ。深めきれないときは、無理に提案まで進めず、続きは次回にしても大丈夫です
うまく引き出せなかった面談があっても、心配はいりません。丁寧に聞いてもらえた相手は、次の面談にも気持ちよく来てくれます。聞き方は、場数を踏むほど上達します。
まとめ
- 深める段階でつかむのは「欲しいもの」と「逃れたいもの」。決め手になりやすいのは逃れたいもの
- 質問の階段は、今・これまで・これから → 満足しているか → いつから → どんな影響 → このまま続いたら → なぜ今 → これまで何をしてきたか、の順
- 「満足している」と言われたら、喜んで聞き切ってから、仮の話として「あえて1つ変えるなら」と聞く
- 「必要だ」から「今必要だ」への変化を、売り手ではなく本人の言葉で起こす
- 問題を指摘しない、ほかを悪く言わない、あおらない
次の面談の前に、用意している質問リストを、この記事の7段の順番に並べ替えてみてください。同じ質問でも、並べ方を変えるだけで、相手から返ってくる言葉が変わります。


