個別面談で、講座の良さを一生懸命に伝えている。受けたらどんな成果が出るのか、半年後にはどうなれるのか。相手もうなずいて聞いてくれる。それなのに、最後は「少し考えます」で終わってしまう。
こういう面談を何度か経験すると、「もっと魅力的な未来を語らないといけないのかな」と考えがちです。でも、そこに力を入れるほど、相手の反応は薄くなっていくことがあります。
結論から言うと、高額の講座やコンサルで、お客様が「申し込もう」と決める決め手になりやすいのは、「これを買えば得をする」という話よりも、「今のままだと、すでにこれだけ失い続けている」という話です。
得する話は、未来の期待です。失い続けている話は、今まさに起きている事実です。この違いが分かると、面談で何を聞き、何を一緒に確かめればいいかがはっきりします。この記事では、その考え方と、不安あおりにしないための線引きまでを整理します。
「得する話」と「失い続けている話」は何が違うのか
講座やコンサルを提案するとき、多くの人は得する話から入ります。「この講座を受ければ、売上が作れるようになります」「半年後には独立も見えてきます」。もちろん、これも大切な情報です。
ただ、お客様の側から見ると、得する話には必ず「本当にそうなるのかな」という疑問がついて回ります。成果が出るかどうかは、本人の取り組みや状況にも左右されるからです。どれだけ魅力的な未来を語っても、それはまだ起きていない話です。
一方、失い続けている話は違います。今の状態のまま過ごしていることで、すでに出ていっているお金、時間、機会のことです。これは未来の予想ではなく、毎月起きている事実です。
| 得する話 | 失い続けている話 | |
|---|---|---|
| 中身 | 受けたら得られるかもしれない成果 | 受けないまま過ごすことで、今も出ていっているもの |
| 確かさ | 未来の期待。本人の取り組みや状況で変わる | すでに起きている事実。本人が一番よく知っている |
| お客様の受け止め方 | 「本当にそうなるのかな」 | 「確かに、このままでは困る」 |
| 面談での扱い | 提案の段階で、道筋と一緒に示す | 提案の前に、質問で一緒に見つける |
たとえば、副業でコーチングをしている会社員の人がいたとします。得する話は「副業で安定した収入を作る」です。失い続けている話は「毎晩何時間もSNSに使っているのに、売上はほとんど増えない。そのたびに自信が削られていく」という今の状態です。
どちらがその人の心に響くかは、想像しやすいと思います。
失い続けている話が決め手になりやすい3つの理由
なぜ、得する話より、失い続けている話のほうが決め手になりやすいのか。理由は大きく3つあります。
- 事実だから疑われない:失い続けているものは、お客様自身が毎日感じていることです。売り手が言い出した話ではなく、本人が口にした事実なので、「本当かな」と疑う余地がありません
- 比べる相手がはっきりする:まとまった支払いを考えるとき、お客様は頭の中で何かと比べています。「何もしない場合」と比べてもらえれば、何もしないことにも実は費用がかかっていると気づいてもらえます
- 世の中が慎重なときほど届きやすい:空気が守りに入っている時期ほど、人は大きな夢より、目の前の損を止めたいと考えます。景気のよい時期は得する話でも売れますが、慎重な時期には失い続けている話のほうが届きやすいと、私は感じています
人は一般に、同じ大きさの得よりも、損のほうを重く感じやすいと言われます。行動経済学で「損失回避」と呼ばれる傾向です。
ただし、これは人を動かす技として使うものではありません。お客様がすでに感じている損を、正確に一緒に確かめるための考え方として持っておいてください。ここを取り違えると、面談はすぐに「脅して売る」方向に崩れます。
得する話を捨てる必要はない
誤解のないように言うと、得する話をやめる必要はありません。未来の目標に強く反応する人もいれば、今の損を止めたい気持ちが強い人もいます。どちらが決め手になるかは、面談で聞いてみないと分かりません。
大切なのは、得する話だけで押し切ろうとせず、失い続けている話も必ず確かめることです。
順番としては、先に失い続けている話を一緒に見つけ、得する話は提案の段階で、解決までの道筋と一緒に示すのが自然です。今の困りごとがはっきりしたあとで未来の話を聞くと、相手はそれを「自分のための話」として受け取れます。反対に、困りごとを聞く前に未来の話をすると、どこか遠い、他人事の話に聞こえてしまいます。
支払いを「出費」ではなく「今のムダを止めること」と見てもらう
失い続けている話をもう一歩進めると、支払いの見え方そのものが変わります。
お客様が今、成果につながらないまま払い続けているお金や時間を、面談の中で一緒に見つけます。そのうえで「このサービスを始めれば、それはもう要らなくなるかもしれない」と示す。すると、支払いは「新しい出費」ではなく「今のムダを止めること」に見えるようになります。
先ほどの副業の人に、これまで集客のために何を使ってきたかを聞いたとします。すると、たとえば次のような答えが返ってきます。
- この1年で、単発の集客セミナーや教材をいくつも買ってきた
- 画像を作るツールや予約システムの月額料金を、ずっと払い続けている
- 毎晩、何時間もSNSの作業に使っている
こうして並べてみると、提案する講座の価格は「何もしないで、今の出費と時間の使い方を続けること」と比べる対象になります。講座づくりと販売の流れが整えば、単発の教材を買い足す必要はなくなり、SNSに使う時間も減らせる見込みがあります。
見積もりを大きくしすぎない
ここで注意してほしいのは、節約できる分を大きく見積もりすぎないことです。「必ず元が取れます」とは言えませんし、言うべきでもありません。
数字は、お客様自身が口にしたものだけを使います。計算も、こちらが一方的に見せるのではなく、一緒にやります。目的は、お客様が自分で「確かに、このままのほうが高くつくかもしれない」と気づくことです。こちらが結論を言ってしまったら、それはもう相手の気づきではなくなります。
価格の伝え方そのものや、迷っている人への向き合い方は、迷っている人への向き合い方と決済案内で書いています。この記事では、その前の段階、つまり「何を失っているか」を一緒に見つけるところに絞ってお伝えしています。
失っているものが一番大きい人が、理想のお客様
この考え方は、面談の中だけでなく、どんな人に来てもらうかを考えるときにも役立ちます。私が考える理想のお客様は、「あなたのサービスを受けないことで失っているものが、一番大きい人」です。
たとえば、料理教室を主宰している人がいたとします。単発レッスンで週末が全部埋まり、子どもと過ごす時間がありません。このまま続ければ、子どもが小さいうちの大事な時間が、毎週確実に失われていきます。
この人にとって、講座の形を変えることは「あったらいい話」ではなく、「早く何とかしたい話」です。こういう方には、提案が自然に届きます。
逆に、困っていることが特にない人に高額の講座を勧めても、決まりません。決まったとしても、本人の中に変わりたい理由が薄いので、成果も出にくくなります。
理想のお客様を描く5つの問い
- その人は、どこに集まっているか
- 何に困っているか
- どんな課題を抱えているか
- 普段、どんな活動をしているか
- どんな言葉なら、自分のことだと感じてもらえるか
この5つに答えられるほど、発信もセミナーも、失っているものが大きい人に届くようになります。リストを集める段階から、決まりやすい人に来てもらう。これも、少人数でも売上を作るための大切な設計です。
不安をあおらないための5つの線引き
失い続けている話は、使い方を間違えると、ただの不安あおりになります。「このままだと大変なことになりますよ」と脅して申し込ませるのは、売り込まずに売れるという考え方とは正反対です。決まったとしても、あとで後悔され、信頼を失います。
私は、次の5つの線を引いています。
- 損失は、お客様自身が話した事実だけを扱う。こちらから想像で付け足さない
- 数字は、お客様の口から出たものを使う。大げさに膨らませない
- 「このまま続いたらどうなりそうですか」と聞くのはよいが、答えを決めつけない
- 恐怖で急がせない。考える時間がほしいと言われたら、その気持ちを尊重する
- サービスで解決できない損失を、解決できるかのように話さない
答えを誘導しない聞き方
面談では、たとえば次のような聞き方をします。答えをこちらが用意せず、本人に考えてもらう形です。
あなた:今のやり方を続けていて、一番困っているのはどんなところですか。
相手:毎晩何時間もかけて投稿しているのに、ほとんど反応がないことですね。
あなた:それは、どのくらい続いていますか。
相手:もう1年くらいになります。
あなた:もし、このままあと1年続いたとしたら、どうでしょう。
相手:……正直、続けられる自信がないです。
ここで、こちらが「それは大変ですね。だから今すぐ始めましょう」と畳みかける必要はありません。本人が自分の言葉で損失に気づいたことが、何よりの前進です。
この「いつから」「このまま続いたら」といった質問を、どの順番で重ねていくかは、悩みを深める「質問の階段」の作り方で詳しくお伝えしています。また、売る側として守りたい線全体については、買った人が「自分で決めた」と思える売り方の5つの基準も参考にしてください。
まとめ
- 得する話は未来の期待、失い続けている話は今の事実。決め手になりやすいのは後者
- 「何もしない場合」と比べてもらうと、何もしないことにも費用がかかっていると気づいてもらえる
- 今のムダな出費や時間を一緒に見つけると、支払いが「新しい出費」ではなく「今のムダを止めること」に見える
- 理想のお客様は、あなたのサービスを受けないことで失っているものが一番大きい人
- 損失は本人が話した事実だけを扱い、膨らませず、恐怖で急がせない
次の面談では、得する話をする前に、「今のやり方を続けていて、一番困っているのはどんなところですか」と1回だけ聞いてみてください。そこから出てくる言葉が、提案の一番の土台になります。


