「今の自分を変えたい」「新しいスキルを身につけて、仕事の幅を広げたい」。そう思って本を読んだり、動画で学んだり、セミナーに参加したりしている方は多いですよね。
ところが、学んだ量のわりに、実際の行動はあまり変わっていない。「いつかやろう」と思ったまま、気づけば数か月たっている。そんな状態に心当たりがある方もいると思います。
結論から言うと、学んでも動けないのは、あなたの意志が弱いからではありません。人には、変化よりも「今のまま」を選びやすい心のクセがあります。これを「現状維持バイアス」と呼びます。クセだと分かれば、責めるのではなく、仕組みで外していけます。
この記事では、現状維持バイアスとは何か、学んでいる人ほど出やすいサイン、動けない原因を構造で見る方法、そして突破するための3つのステップを、具体例と一緒にお伝えします。
現状維持バイアスとは、変化より「今のまま」を選ぶ心のクセ
現状維持バイアスとは、今の状態に不満があっても、変化するより今のままでいるほうを選んでしまう心の傾向のことです。心理学の分野でよく知られている、人の考え方のクセの一つです。
たとえ今の仕事や働き方に不満があっても、「今のままのほうが安全だ」「変えるほうがリスクが大きい」と感じてしまう。その結果、頭では変わりたいと思っていても、体が動かない状態になります。
なぜ、このクセが生まれるのか
よく言われる説明は、人の脳がもともと「安全で安定した状態」を好むようにできている、というものです。はるか昔は、慣れない場所に踏み出すことが命の危険につながりました。変化を避けるクセは、生き延びるためには役に立っていたわけです。
このクセは、今の生活の中でも無意識に働いています。新しいスキルを学ぼうとしたときに「失敗したらどうしよう」「今の収入がなくなったら困る」と不安がわいてくるのは、自然な反応です。
日常の中にもある、現状維持バイアス
意識して見てみると、現状維持バイアスは身の回りにたくさんあります。
- お店に行くと、いつも同じメニューを頼んでしまう
- 興味のある習い事があるのに、申し込むところまで進まない
- 今の仕事に不満はあるのに、転職や副業の情報を調べるだけで終わる
どれも、悪いことではありません。ただ、スキルを身につけたいときには、このクセがブレーキとして働きます。
学んでいる人ほど出やすい3つのサイン
現状維持バイアスは、誰にでも起こります。特に、学ぶ意欲が高い人ほど気づきにくい形で出てきます。次の3つに当てはまるものがないか、確かめてみてください。
- 新しい情報に触れても、行動に移すところまで進まない
本やセミナーで学ぶこと自体が目的になり、「時間ができたらやろう」と先に延ばしている - 失敗が怖くて、最初の一歩を小さくできない
「どう思われるか」が気になって、人に見せる段階に進めない - 不満はあるけれど、今の生活を変えたくない気持ちも強い
「このままでいいのか」と思いながら、具体的な計画は立てていない
当てはまるものがあっても、落ち込む必要はありません。これはクセが働いているサインであって、能力の問題ではないからです。
実は、私自身も独立したばかりの頃は、何を発信すればいいか分からず、ブログやSNSを続けても成約につながらない時期がありました。当時一番欲しかったのは、「これを、この順番でやればいい」という手順でした。手順が見えないと、人はどうしても今のやり方にとどまってしまいます。
動けない原因は、性格ではなく「構造」にある
「私は腰が重い性格だから」と考えると、対策が立てられません。動けない状態は、性格よりも次の3つの構造から生まれていることが多いです。
| 構造 | 起きていること | 見直す方向 |
|---|---|---|
| 一歩が大きすぎる | 「講座を作る」「ブログを始める」など、最初の行動が大きい | 15分でできる大きさまで分ける |
| 比べる相手がいない | 自分の今の状態しか見ていないので、足りないものが分からない | すでにできている人の行動を見る |
| 失敗の見積もりが大きい | 失敗したときの損を、実際より大きく想像している | 小さく試して、実際の損を確かめる |
現状維持バイアスは、「変えたときの損」を大きく見せるクセです。だから、変えたときの損が小さくなるように、行動のほうを小さく分けてあげると、動きやすくなります。
現状維持バイアスを突破する3ステップ
ここからは、クセに気づいて、実際に動き出すまでの手順です。
ステップ1:自分の「無意識のフィルター」に気づく
現状維持バイアスが働いていると、人は見たい情報だけを見て、都合の悪い情報を無意識に脇へよけてしまいます。たとえば、「成功している人は特別な才能があったから」と考えると、自分がやっていない行動には目が向かなくなります。
まずは、自分の中にこうしたフィルターがあることに気づくところからです。次のような問いを、自分に向けてみてください。
- 自分に都合の悪い情報から、目をそらしていないか
- 「自分には無理」と決める前に、やり方を確かめたか
- 学んだ内容のうち、まだ試していないものはどれか
紙に書き出すと、頭の中だけで考えるより客観的に見られます。
ステップ2:成功している人の行動を「やってないことリスト」に書き出す
次に、あなたが身につけたいスキルをすでに持っている人を一人決めます。そして、その人がやっている行動を書き出し、その中で「自分はまだやっていないこと」に印をつけます。これが「やってないことリスト」です。
このリストは、現状維持バイアスが作っていた「見えない壁」を、具体的な課題に変えてくれます。「なんとなく足りない」が「この3つをやっていない」に変わると、次にやることが決まります。
お手本となる人の見つけ方は、モデリングの考え方の記事で詳しく書いています。
ステップ3:「とりあえずやってみる」を小さく実践する
最後は、リストの中から、今日できる大きさの行動を1つ選んで、やってみます。考えすぎず、小さく試すことが目的です。
行動してみると、やる前には見えなかったことが見えてきます。「思ったより簡単だった」「ここが分からない」という具体的な手応えは、行動した人にしか手に入りません。この手応えが増えるほど、変化への不安は小さくなっていきます。
学んだことを忘れる前に試す習慣は、学習したらすぐに実践する習慣の作り方でも解説しています。
「やってないことリスト」の作り方の例
イメージしやすいように、例を出してみます。たとえば、ブログで集客できるようになりたい人がいたとします。お手本にした人の行動を書き出すと、こうなりました。
| お手本の人がやっていること | 自分 |
|---|---|
| 読者の悩みを先に集めてから記事を書く | やっていない |
| 1記事に1つのテーマだけを書く | ときどき |
| 記事の最後に次の行動を書いている | やっていない |
| 書いた記事を後から直している | やっていない |
| 決まった曜日に更新している | できている |
こうして並べると、「文章力が足りない」とぼんやり悩んでいたのが、「悩みを集める」「最後に次の行動を書く」という具体的な課題に変わります。まずは次の1記事で、最後に次の行動を1行書き足してみる。これくらいの大きさで十分です。
よくある失敗
現状維持バイアスを突破しようとするときに、つまずきやすい点も押さえておきます。
- リストを作って満足してしまう:リストは行動を選ぶための道具です。1つ選んで試すところまでを1セットにします
- 一度に全部を変えようとする:大きく変えようとするほど、クセは強く働きます。1回に変えるのは1つだけにします
- お手本を何人も同時に追いかける:言っていることがぶつかると、また動けなくなります。まずは一人に絞ります
- うまくいかなかった日に「やっぱり自分は無理」と決める:試した結果は、次の一歩を決める材料です。直す場所が見つかったと考えます
行動を続けるために、先に未来の場面を具体的に思い描いておく方法もあります。「未来の記憶」の作り方も参考にしてみてください。
まとめ
- 学んでも動けないのは、意志の弱さではなく「現状維持バイアス」という心のクセが働いているから
- 動けない原因は、一歩が大きすぎる・比べる相手がいない・失敗の見積もりが大きい、という構造で見る
- 突破の3ステップは「無意識のフィルターに気づく」「やってないことリストを作る」「小さくやってみる」
- リストは作って終わりにせず、1つ選んで試すところまでを1セットにする
まずは、身につけたいスキルを持っている人を一人決めて、その人がやっていることを5つ書き出してみてください。その中の「やっていない」1つが、あなたの次の一歩です。



