できるだけ出費を抑えたい。安い方法があるなら、そちらを選びたい。その気持ちは、とてもよく分かります。無駄づかいをしないのは大切なことです。
ただ、節約しているつもりなのに、なぜかお金も時間も増えていかない。そんな状態が続いているなら、一度立ち止まって考えてみてほしいことがあります。
結論から言うと、目に見える出費を減らした裏で、選ばなかった道から得られたはずの利益を失っていることがあります。 この見えない損失を「機会費用」と呼びます。
この記事では、私が実際に見聞きした2つの事例をもとに、機会費用とは何か、なぜ気づきにくいのか、そして選ぶ前に何を比べればいいのかをお伝えします。
東京に住みたいのに、地方に住み続けている起業家の話
昔からよく知っている、40代の起業家の方の話です。
彼は地方を拠点にしながら、全国にクライアントを持つコンサルタントとして働いています。打ち合わせやセミナーで東京に行く機会がとても多く、月に2〜3回は飛行機で往復し、打ち合わせの時間によっては前後に宿泊もしています。
「東京に住んだほうが楽じゃないですか?」と私が聞くと、彼はこう答えました。
「住みたいと思っています。お客さんやビジネスパートナーとも気軽に会えるし、人脈も作りやすい。学びたいセミナーにもすぐ行ける。でも、家賃も物価も高いので、踏み切れないんですよね」
家賃や物価が高いから、できるだけお金のかからない方を選びたい。とても自然な考え方です。
ただ、少し数字を並べてみると、見え方が変わってきます。
- 地方と東京の生活費の差は、住む地域を選べば月に10万円ほど
- 一方で、今も上京のたびに交通費と宿泊費がかかり、少ない月でも5万円ほどになる
- つまり、地方に住むことで浮いているお金は、多く見積もっても月に5万円ほど
- 彼のコンサルティングは1件の契約が大きく、年に1〜2件契約が増えれば、増えた生活費は十分にまかなえる
東京にいれば、打ち合わせや交流の機会は増えます。そう考えると、地方に住み続けることで節約しているつもりの金額より、得られたはずの売上のほうが大きい可能性があります。
もちろん、どこに住むかはお金だけで決めることではありません。ご家族の仕事や暮らし、それぞれの価値観もあります。大切なのは、「節約できている金額」だけでなく「失っているかもしれないもの」も並べたうえで、家族で話し合って決めることです。
機会費用とは「選ばなかった道の利益」
機会費用とは、ある選択をしたことで失われる、「もう一方を選んでいたら得られたはずの利益」のことです。
家賃、物価、毎月の給料などは、数字ではっきり見えます。いくら節約できたか、いくら増えたかがすぐに分かります。
でも、機会費用は、実際には選ばなかった道の話なので、通帳にも家計簿にも出てきません。そのため、損をしていても気づかないことがほとんどです。
| 目に見えるお金 | 目に見えないお金(機会費用) |
|---|---|
| 家賃・交通費・外注費 | そのお金を使わなかったことで失った時間や売上 |
| 節約できた金額 | 節約に使った時間で得られたはずの収入 |
| 今月の給料 | 本業以外に時間を使えなかったことで遅れた成果 |
こうして並べると、「お金を増やすつもりで、お金を捨てている」ことが起こりうると分かります。
高速バスで12時間かけて上京していた相談者の話
もう一つ、以前ご相談を受けていた方の話です。
彼は大分に住んでいて、東京のセミナーに参加するときは、深夜の高速バスを乗り継いで片道12時間以上かけて移動していました。宿泊が必要なときは、格安のネットカフェに泊まっていたそうです。バスでもネットカフェでもよく眠れず、セミナー中に眠くなってしまうこともあったと聞きました。
当時の彼は、オンラインで30万円の商品を案内するセミナーを開いていました。ネット環境さえあれば、宿泊先のホテルからでも開けるものです。
飛行機と手ごろなホテルを使っても、高速バスとの差額は2万円ほどでした。移動を早く終わらせ、しっかり休んで、ホテルからオンラインのセミナーを開くこともできたのです。
2万円を節約するために、30万円の商品を案内する機会を手放している。そのことをお伝えすると、彼はすぐに移動手段を変えてくれました。そして、ホテルから開いた最初のセミナーで、30万円の商品の成約が生まれました。
それ以来、彼は何かを選ぶときに、機会費用を考えるようになったそうです。
時給で考えると、機会費用が見えてくる
機会費用は、自分の時間を「時給」に置き換えてみると、ぐっと見えやすくなります。
たとえば、時給2,000円で働ける人が、500円を節約するために1時間かけて自炊したとします。その1時間を働く時間に回せたなら、2,000円の収入になったはずです。この場合、500円を節約して2,000円の収入を手放したことになります。
体力も同じです。1,000円の交通費を節約するために長い距離を歩き、翌日に疲れが残って仕事がはかどらなかった。そうなれば、節約した1,000円より大きな収入を失っているかもしれません。
収入が大きくなるほど、時間や体力を失うことの影響は大きくなります。起業を目指している人なら、本業やアルバイトを優先しすぎてビジネスの準備が何か月も進まない、無料の情報だけで遠回りを続ける、ということも同じ構造です。成果が出る時期が遅れた分だけ、見えない損失が積み重なっていきます。
一方で、手元のお金に余裕がなく、生活を守るために節約やアルバイトが必要な時期もあります。それは決して間違った選択ではありません。機会費用の考え方は、節約をやめるためのものではなく、よりよい選び方をするための道具です。
選ぶ前に比べたい3つのこと
では、実際に何かを選ぶとき、どう考えればいいのでしょうか。私は次の3つを並べて比べることをおすすめしています。
- 目に見える出費:この選択で、いくら出ていくか・いくら浮くか
- 失う時間と体力:この選択で、どれだけの時間と体力を使うか
- その時間で生まれたはずのもの:その時間と体力を別のことに使ったら、何が生まれたか
たとえば、「講座の資料作りを自分でやるか、人に頼むか」で迷ったとします。自分でやれば費用はかかりませんが、慣れない作業に数日かかるかもしれません。その数日を、お客様との個別相談や、募集の準備に使えたらどうでしょうか。こうして並べると、どちらを選ぶべきかが見えやすくなります。
3つ目は正確な金額にならなくてもかまいません。「商品の準備が1週間早く進む」「お客様と話す時間が増える」といった形で書き出すだけでも、判断は大きく変わります。
時間の使い方という点では、「準備ができてから」と先延ばしにしている間にも機会費用は生まれています。日程を先に決めて動く考え方は先に日程を決めるチャレンジ企画の実践スケジュールで、学びにお金を使う判断についてはコンサル費100万円は高いか?安いか?で書いています。また、時給を上げる努力そのものを見直す考え方は時給を上げるための努力は今すぐやめようも参考にしてください。
まとめ
- 目に見える節約の裏で、選ばなかった道の利益(機会費用)を失っていることがある
- 機会費用は通帳にも家計簿にも出てこないので、気づきにくい
- 自分の時間を時給に置き換えると、見えない損失が見えてくる
- 生活を守るための節約は間違いではない。機会費用は、よりよく選ぶための道具
- 選ぶ前に「出費」「失う時間と体力」「その時間で生まれたはずのもの」の3つを比べる
まずは、今週あなたが「節約のために選んだこと」を1つ思い出して、その選択で使った時間と、その時間でできたはずのことを書き出してみてください。数字にならなくても、並べるだけで次の選び方が変わります。



