講座の中身には自信がある。やり方も一つずつ丁寧に説明している。それなのに、受講者がなかなか手を動かしてくれない。質問も感想も少なく、途中で止まってしまう人がいる。講座をしている方から、こうした悩みをよく聞きます。
こういうとき、多くの方は「説明がまだ足りないのかもしれない」と考えて、やり方の説明をさらに増やします。ところが、説明を増やすほど講座は長くなり、受講者はますます動かなくなることがあります。
結論から言うと、受講者が動かない原因は中身ではなく、伝える順番にあることが多いです。人は、やり方を聞く前に「それは何か」「なぜ自分に必要か」「身につけるとどうなるのか」が分かって、はじめて「やり方を知りたい」と思います。この順番を守るだけで、同じ中身でも受け取られ方が大きく変わります。
この記事では、やり方から教えると伝わらない理由、4つの要素を伝える順番、4つのうち一番力を入れるところ、そして講座やセミナーへの組み込み方を解説します。
やり方から話すと、なぜ伝わらないのか
講師は、自分のテーマをよく知っています。だからこそ、一番おいしいところである「やり方」から話したくなります。受講者もやり方を知りたいはずだ、と考えるのも自然です。
でも、受講者の頭の中はまだ準備ができていません。そもそもそれが何なのか、自分にどう関係があるのかが分からないまま手順だけを聞くと、「なるほど」と思っても、自分がやる理由が見つからないのです。
たとえば、料理を習いに来た人に、いきなり包丁の持ち方と切り方の手順だけを延々と説明したとします。間違ったことは言っていません。でも、今日作る料理が何で、なぜその切り方をするのか、うまく切れると何が変わるのかが分からないと、聞いている方は退屈になります。
やり方が響かないのは、やり方を受け取る準備ができていないからです。 その準備をつくるのが、やり方の前に置く3つの要素です。
伝える順番は「何か→なぜ→どうなるか→やり方」
受講者が「知りたい」と思う順番は、次の4つです。
| 順番 | 伝えること | 受講者の頭の中 |
|---|---|---|
| 1. それは何か | テーマの定義、一言でいうと何か | 「何の話か分かった」 |
| 2. なぜ大事か | 学ぶ理由、放っておくと困ること | 「自分に関係がある」 |
| 3. どうなるか | 身につけた人の変化、事例 | 「自分もそうなりたい」 |
| 4. やり方 | 具体的な手順、進め方 | 「さっそくやってみたい」 |
1. それは何か
最初に、これから話すテーマが何なのかを伝えます。一言でいうと何か、似たものとどう違うのか、よくある誤解は何か。ここがあいまいなまま進むと、受講者はずっと「今、何の話をしているんだろう」と考えながら聞くことになります。
2. なぜ大事か
次に、なぜそれを学ぶ必要があるのかを伝えます。やらないと何が起きるのか、今のやり方のどこで損をしているのか。受講者のやる気を一番大きく左右するのが、この部分です。
3. 身につけるとどうなるか
そのうえで、実際にそれを身につけた人がどうなったかを見せます。お客様の事例があれば事例を、なければ講師自身の経験で構いません。自分と似た人の変化を見ると、受講者は「自分にもできるかもしれない」と感じます。
4. やり方
最後に、具体的なやり方を伝えます。講座の中で一番量が多くなる部分です。ここまでの3つで準備ができているので、受講者は前のめりになって聞いてくれます。
4つのうち、どれか1つだけでは足りない
4つの要素は、そろってはじめて力を持ちます。1つずつ見ると、それぞれに弱点があるからです。
- 「何か」だけ:説明は正しくても、教科書を読んでいるような退屈な話になる
- 「なぜ」だけ:熱意は伝わっても、「それで、どうすればいいの」で終わる
- 「どうなるか」だけ:事例はすごくても、自分とは関係のない話に聞こえる
- 「やり方」だけ:手順は分かっても、やる理由がないので手が動かない
4つが順番に出てくると、最後に「やり方」が示されたところで、受講者の中でパズルの最後のピースがはまったように話がつながります。
この4つは、講師にとっても便利な道具です。1つのテーマについて4つの観点から話す内容を書き出すだけで、伝えるべきことの抜けが見つかります。「なぜ」の話がほとんどないと気づいたり、事例が1つもないと気づいたりするわけです。
一番力を入れるのは「なぜ」
4つの中でも、特に力を入れたいのが「なぜ大事か」です。
人は、何を学ぶかより、なぜ学ぶかで動きます。ある商品が便利だという説明より、「なぜその商品を作ったのか」という作り手の考えに共感したときの方が、人は強く心を動かされます。講座も同じです。
「なぜ」を語るときに意識したいのは、次の2つです。
- 受講者にとっての理由:このテーマを学ばないと、どんな場面で困り続けるのか
- 講師にとっての理由:なぜ自分はこのテーマを教えているのか、何を大事にしているのか
「なぜ」は、講座の冒頭で、一番時間をかけて伝えます。 やり方と同じ重さで並べるのではなく、講座全体の土台として先に置くのです。
私の場合、講座で伝えている「なぜ」は、根性で頑張る量を増やすより、売れる仕組みを作るほうが、少人数でも売上が作れて自由な時間も残せる、ということです。これは私自身が、頑張る量で乗り切ろうとして失敗した経験から来ています。この「なぜ」に共感してくれた人は、やり方の部分でも驚くほど手を動かしてくれます。
講座やセミナーに組み込む手順
では、実際に講座に組み込む手順です。
- テーマを1つ決める:1回分の講座、または1つの章で扱うテーマを1つに絞る
- 4つの見出しを置く:「〇〇とは何か」「なぜ〇〇が大事なのか」「〇〇でどう変わるか」「〇〇のやり方」の4つを並べる
- 見出しの下に話すことを単語で書く:文章にせず、話したいことを短い言葉で並べる
- 抜けを確かめる:4つのうち、書くことが少ないところがないかを見る
- 回を分けるか決める:「何か」と「なぜ」が長くなるなら、別々の回に分ける
5つ目の「回を分ける」は大事なポイントです。「何か」と「なぜ」を1回に詰め込むと、どちらも薄くなりがちです。特に「なぜ」は独立した1回にしてもいいくらいです。
また、受講者が見る資料では、「何か」「なぜ」といった言葉をそのまま見出しにする必要はありません。「〇〇の基本」「〇〇を後回しにすると起きること」など、受講者に伝わる言葉に置き換えます。4つの型は、あくまで講師のための設計図です。
たとえば、家計の整え方を教える人がいたとします
例を出してみます。家計の整え方を教える人がいたとします。
最初は、家計簿のつけ方と、費目ごとの予算の決め方から説明していました。すると、受講者は「面倒そう」と感じて、最初の週で止まってしまいます。
そこで順番を変えます。まず「家計を整えるとは、節約することではなく、お金の行き先を自分で決めることだ」と、何かを伝えます。次に、行き先を決めないままだと、収入が増えても残らない理由を伝えます。そのうえで、行き先を決めた人が、我慢を増やさずに貯金ができるようになった変化を見せます。最後に、家計簿のつけ方を教えます。
中身はほとんど変わっていません。変えたのは順番だけです。それでも、受講者は「やってみたい」という気持ちで家計簿を開いてくれるようになります。
4つの型を使うときにやりがちな3つの失敗
型を知ると、今度は型に振り回されることがあります。よくある失敗を3つ挙げておきます。
1つ目は、前の3つが長くなりすぎることです。「なぜ」が大事だからといって、やり方にいつまでも入らないと、受講者は待ちくたびれます。目安として、やり方に入る前の3つは、受講者が「早くやり方を知りたい」と感じたところで切り上げます。
2つ目は、「どうなるか」で大げさな話をすることです。事例は、受講者が「自分と似ている」と感じられるものを選びます。特別な才能や条件がある人の話ばかりだと、かえって「自分には無理だ」と思わせてしまいます。事例がまだ少ないうちは、講師自身の小さな変化を正直に話すほうが伝わります。
3つ目は、やり方を全部一度に渡すことです。やり方の部分は、1回で全部を教えようとせず、「まずこれだけやってみる」という最初の一歩を決めて渡します。一歩目ができた受講者は、次の一歩も自分から聞きに来てくれます。
型は、受講者が動きやすくなるための道具です。型どおりに話すことが目的ではありません。受講者の顔を思い浮かべながら、4つの長さの配分を調整していきます。
販売の場では「やり方」の手前までを渡す
この4つの順番は、講座の中だけでなく、セミナーや無料の発信でも使えます。ただし、使い方が少し変わります。
無料のセミナーや発信では、「何か」「なぜ」「どうなるか」をしっかり伝え、やり方は全体の流れや最初の一歩までにとどめます。やり方を細かく全部渡してしまうと、参加者は「分かった気」になって満足し、自分の課題に気づかないまま帰ってしまうからです。
私がチャレンジ企画の1日目でやっているのも、この考え方です。1日目は全体像と可能性を伝え、参加者に「自分にもできそうだ」と感じてもらうことに集中します。流れはDay1「全体像と可能性」の9ステップで解説しています。そして、やり方を渡すときは、聞くだけで終わらせず、ワークで手を動かしてもらいます。その設計はワークと宿題で人を動かすHOW設計にまとめています。
伝える順番を整えることは、売り込まずに売れる流れを作ることにもつながります。
まとめ
- 受講者が動かない原因は、中身より伝える順番にあることが多い
- 伝える順番は「それは何か→なぜ大事か→身につけるとどうなるか→やり方」
- 4つはそろってはじめて力を持つ。書き出すと、伝えるべきことの抜けも見つかる
- 一番力を入れるのは「なぜ」。講座の冒頭で、時間をかけて伝える
- 無料の場では、やり方の手前までをしっかり渡し、手を動かす部分は講座で支える
まずは、今ある講座の1回分を選んで、「何か・なぜ・どうなるか・やり方」の4つに分けてみてください。一番書くことが少なかったところが、あなたの講座で次に足すべきところです。


