会社に勤めていると、社員研修を受ける機会があります。私もサラリーマン時代にいくつか受けましたが、勤めていた会社の研修は、どちらかといえばゆるい内容でした。
ところが、以前テレビで紹介されていたある会社の新人研修を見て、驚いたことがあります。大きな声で決まった言葉を繰り返し叫ばせ、疲れ切ったところで「壁を乗り越えろ」「逃げるな」と気持ちを奮い立たせる。番組は、それを「厳しいけれど成長につながる研修」として、どちらかといえば好意的に取り上げていました。
こうした厳しさを「成長」と受け止めて、つらい環境でも我慢して働き続けている方は、今も少なくないと思います。
結論から言うと、逃げることは恥ずかしいことではありません。 勝ち目のない場所で倒れるまで戦い続けるより、一度離れて、自分が本当に戦うべき場所を選び直したほうが、人生はずっと良い方向に進みます。この記事では、私自身がサービス残業に染まっていた頃の話と、会社を離れた体験、そして逃げる前に考えておきたい3つの問いをお伝えします。
厳しい研修は、本当に「成長」なのか
先ほどの研修のように、睡眠不足や疲労でふらふらになったところに、気合いや根性の言葉を繰り返し聞かせる方法があります。心理学や人の動かし方を少し学ぶと、これは判断する力が落ちているところに考え方を刷り込む方法だと分かります。
こうした研修を受けると、個人の価値観よりも、会社にとって都合の良い考え方が優先されるようになります。長時間の労働も、休めないことも、「みんなやっているから当たり前」と受け入れるようになっていきます。
そして、その価値観を当たり前だと思った人が、今度は後輩や周りの人にも同じことを求めるようになります。こうして、無理な働き方が職場の中で受け継がれていきます。
もちろん、社員を育てるために厳しい指導が必要だと考える人もいますし、仕事で身につく力もたくさんあります。ただ、人の価値観や心と体をすり減らすことを「成長」と呼ぶのは、やる側もやらされる側も、見直したほうがいいと私は考えています。
私もその価値観に染まっていた
偉そうなことを書いていますが、私自身も、サラリーマン時代はその価値観の中にいました。
毎日長時間の残業をして、サービス残業も月に何十時間としていました。周りもほとんど全員が同じような働き方をしていたので、それがおかしいとは思わなかったのです。人は、周りがみんなそうしている環境にいると、自然と染まっていきます。
今振り返ると、あの頃の私は「ここで耐えるのが大人だ」「逃げたら負けだ」と思い込んでいました。つらいと感じる自分のほうが弱いのだと考えて、働き方そのものを疑うことはありませんでした。
同じように、今の職場で「つらいのは自分が弱いからだ」と感じている方もいるかもしれません。でも、それはあなたが弱いのではなく、そういう考え方になるような環境にいる、というだけのことかもしれません。
「逃げる」という選択肢を持っておく
こうした話を見聞きするたびに思うのは、人生において「逃げる」という選択肢を持っておくことは、本当に大事だということです。
どんな会社かは、入ってみないと分かりません。外からは見えないことが、中に入って初めて見えてくることもあります。だから、入った会社が思っていた場所と違っていたとしても、それはあなたの落ち度ではありません。
そのときに「逃げる」という選択肢を持っていないと、どれだけつらくても、その場にとどまり続けるしかなくなります。無理を重ねた結果、心や体を壊してしまう人もいます。
「障害から逃げるな」「壁を乗り越えろ」「もっと強くなれ」。そんな言葉をかけられることもあるでしょう(私も昔、似たようなことを言われた気がします)。でも、その言葉をすべて真に受ける必要はありません。
少し前に『逃げるは恥だが役に立つ』というドラマが話題になりました。「三十六計逃げるに如かず」「逃げるが勝ち」ということわざもあります。逃げることは、昔から、自分を守るための知恵として語られてきました。
もし今、限界に近いと感じているなら、一人で抱え込まずに、家族や信頼できる人、医療機関や公的な相談窓口に話してください。逃げ方を考えるのは、そのあとで大丈夫です。
逃げるのは負けではなく、戦う場所を選び直すこと
「逃げる」という言葉に抵抗がある方は、「戦う場所を選び直す」と言い換えてみてください。
勝ち目のない戦いに挑み続けて倒れてしまったら、一番困るのは自分自身です。勝ち目がないと分かったら、一度その場を離れて力を蓄え、戦うべき時期に備える。あるいは、まったく別の方法で挑戦する。そのほうが、ずっと大切です。
漫画や映画でも、敵を見つけた瞬間に後先考えずに突っ込んでいく登場人物は、たいてい早々にやられてしまいます。主人公は、ときに退き、準備を整え、戦うべき場面を選んでいます。
人生は一度きりで、時間も体力も限られています。乗り越えるべき壁と、乗り越えなくていい壁を見分けること。 これが、逃げるかどうかを考えるときの軸になります。
あなたが望む未来が、今の職場で耐え続けた先にないのであれば、その壁は乗り越える必要のない壁です。上司に怒られたり、同僚にあきれられたりしても、あなたが自分の人生を選ぶことに比べれば、小さなことです。そして、本当に立ち向かうべき壁のために、力を残しておいてください。
逃げる前に考えたい3つの問い
とはいえ、勢いだけで逃げると、次の場所でも同じことを繰り返してしまうことがあります。逃げると決める前に、次の3つを紙に書き出してみてください。
| 問い | 書き出すこと |
|---|---|
| 1. 自分が望む未来はどんなものか | 5年後にどんな働き方、どんな暮らしをしていたいか |
| 2. 今の場所で耐えた先に、その未来はあるか | 上司や先輩の今の姿は、自分がなりたい姿か |
| 3. 離れたあと、何から始めるか | 最初の3か月でやること、生活費の見通し |
1つ目と2つ目で、今の場所が「乗り越えるべき壁」なのか「乗り越えなくていい壁」なのかが見えてきます。3つ目は、逃げたあとに慌てないための準備です。
会社を辞めるか、続けるかの二択で考える必要もありません。働きながら少しずつ自分のビジネスを始めて、準備ができてから離れるという選び方もあります。真面目な人ほど、我慢の先で後悔しやすいという話は、人生を失敗して後悔する典型的なパターンでも書いています。
私が会社から逃げた話
最後に、私自身の話をさせてください。
サラリーマン時代、毎日の長時間残業を続ける中で、私はあるとき「このまま雇われて働き続けても、自由にはなれない」と気づきました。そして、会社にあった早期退職の制度を使って、会社を離れました。心も体も壊れてしまう前に、逃げたのです。
それから、起業とビジネスの世界こそが自分の戦う場所だと決めて、一人で取り組んできました。同期の社員が相変わらず残業の多い日々を送ったり、望まない転勤をしたりしている中で、私は私の道を進みました。
もちろん、最初から順調だったわけではありません。独立したばかりの頃は、何をどの順番でやればいいか分からずに遠回りをして、大きなお金を失ったこともあります。それでも数年かけて、ある程度の結果を出すことができました。そして、サラリーマン時代にはできなかった、仕組みで仕事を回す働き方を手に入れることができました。
もしあのとき、戦う場所を真剣に考えずに会社に残り、会社にとって都合の良い社員として頑張り続けていたら。私は今も、満たされない毎日に不満を言いながら、同じ働き方を続けていたかもしれません。
あのとき逃げて、本当に良かったと思っています。会社員として過ごした時間をどう振り返るかは、大企業・公務員・医者は本当に勝ち組か?にも書いています。また、頑張る量ではなく仕組みで働き方を変える考え方は、ビジネスの仕組み化が重要な理由で解説しています。
まとめ
- 心と体をすり減らす厳しさを「成長」と呼ぶのは、やる側もやらされる側も見直したほうがいい
- つらいと感じるのは、あなたが弱いからではなく、そういう考え方になる環境にいるからかもしれない
- 逃げることは恥ではなく、戦う場所を選び直すこと
- 逃げる前に、望む未来・今の場所の先にその未来があるか・離れたあと何から始めるか、の3つを書き出す
- 限界に近いときは、一人で抱え込まずに誰かに話す
まずは、今の自分の働き方について、「5年後もこのままでいたいか」を一行だけ紙に書いてみてください。その答えが、あなたが戦う場所を考える出発点になります。



