「起業したいなら、その前に一度は就職して社会を学んだほうがいい」。自分のビジネスで生きていきたいと考えている大学生の方から、こう言われて迷っている、という相談をよく受けます。
家族や先生、先輩から同じことを言われると、「やっぱりそうなのかな」と不安になりますよね。周りの友人がみんな就職活動をしていると、なおさらです。
結論から言うと、「とりあえず就職する」は、目的がなければ遠回りになりやすい選択です。一方で、やりたいビジネスに直結することを学ぶための就職なら、立派な近道にもなります。大切なのは、就職するかどうかではなく、「何のために就職するのか」が言えるかどうかです。
この記事では、就職が近道になる場合と遠回りになる場合の違い、会社員と起業家に求められる力の違い、迷ったときに自分に聞いてほしい3つの問い、そして在学中にできる小さな一歩をお伝えします。
「とりあえず就職」は、目的によって近道にも遠回りにもなる
私は20年以上会社員として働いてから起業しました。一方で、私のコンサル生には、大学生のうちに自分のビジネスを始めた人も何人かいます。その両方を見てきて思うのは、就職そのものが良い・悪いのではなく、目的しだいだということです。
たとえば、将来居酒屋を経営したい人が、繁盛している居酒屋で働いて、経営のやり方や人気の理由を学ぶ。映画を作りたい人が、映像制作の会社に入って、新しい技術を身につけたり、業界の人とのつながりを作ったりする。こうした、自分のやりたいことに直結した就職は、とても良い選択です。
一方で、「社会人としてのマナーを学ぶため」「社会の仕組みを知るため」という理由だけで、興味のない仕事に何年も就くのは、起業したい人にとっては遠回りになりやすいです。
| 近道になる就職 | 遠回りになりやすい就職 | |
|---|---|---|
| 目的 | やりたいビジネスに直結する技術・経験・つながりを得る | マナーや「社会」を一般的に学ぶ |
| 選ぶ会社 | 自分がやりたいことをすでに上手にやっている会社 | 知名度や安定で選んだ会社 |
| 働く期間 | 学ぶことが終わったら次へ進む前提 | 期限を決めていない |
社会人のマナーは、就職しなくても学べる
「就職しないと、社会人としての常識が身につかない」と心配される方もいます。ただ、ビジネスで必要になるマナーであれば、関連する本を何冊か読めば、短い期間で身につけられます。
そのために、長い時間をかけて就職活動をして、その会社の中でしか通用しない独自のルールを覚える必要はありません。
実際、学生のうちに起業したコンサル生たちを見ていても、社会を知らないという印象を受けることはありません。知識が豊富で、興味や関心の幅が広い人が多いです。社内の細かい決まりや、会社ならではの慣習は知らないかもしれません。でも、それは自分のビジネスをしていくうえでは、ほとんど必要のないことです。
会社員に求められる力と、起業家に求められる力は違う
会社員として求められる力と、自分でビジネスをするときに求められる力は、かなり違います。
| 会社員として求められやすい力 | 起業家として求められる力 |
|---|---|
| 任された範囲の仕事を正確にこなす | 何を売るかを自分で決める |
| 決められたルールや手順に従う | 売れる流れを自分で組み立てる |
| 上司の指示を読み取る | お客様の悩みを読み取る |
| 部署の役割の中で成果を出す | 集客から販売まで全体を見る |
特に大きな会社では、仕事が細かく分かれているので、ビジネスの全体を自分で見る機会はあまりありません。また、大きな会社が使える広告やメディアのやり方は、個人のビジネスではそのまま使えないことも多いです。
私自身、20年以上の会社員生活で、会社のルールやマナーなど多くのことを身につけました。でも、起業して成果を出すために直接役に立ったのは、会社でパソコンを使っていたのでタイピングができた、というくらいでした。むしろ、会社員としての考え方がなかなか抜けず、切り替えるまでに時間がかかりました。
会社で得にくいものについては、会社に勤めても得られない重要なことで詳しく書いています。
就職するか迷ったときの3つの問い
では、実際に迷っているときは、どう決めればよいのでしょうか。次の3つの問いに、自分で答えてみてください。
問い1:その会社で「何を」学ぶのか、一言で言えるか
「営業のやり方を学ぶ」「この業界の仕入れの仕組みを知る」のように、学ぶことを具体的に言えるなら、その就職には目的があります。「社会を知るため」「なんとなく安心だから」しか出てこないなら、一度立ち止まって考えてみる価値があります。
問い2:それは、やりたいビジネスに直結しているか
学ぶことが言えたら、それが将来やりたいビジネスにつながっているかを確かめます。つながっているなら、就職は近道です。つながっていないなら、その時間を自分のビジネスに使ったほうが早いかもしれません。
問い3:生活のお金をどうするか、決めているか
ここは、とても現実的な問いです。生活するためのお金に困る場合は、話が別です。まずは働いて生活を安定させながら、空いた時間で自分のビジネスを小さく始める、という道も十分にあります。
3つの問いに答えてみると、「就職するか・しないか」ではなく、「何のために、どのくらいの期間働くか」という形で考えられるようになります。
在学中にできる小さな一歩
学生のうちは、時間を比較的自由に使える貴重な時期です。起業を考えているなら、在学中から小さく始めてみることをおすすめします。
会社で担当する範囲の仕事を指示どおりに進めるより、ゼロから商品やサービスを考えて、安いものでもいいので実際に売ってみるほうが、実践的な知識と経験が身につきます。
- 自分が人より詳しいことを書き出す:勉強、部活、趣味、アルバイトの経験など
- それで困っている人に話を聞く:後輩や友人など、身近な人から
- 小さく売ってみる:相談に乗る、教える、代わりに作るなど、小さな形で
たとえば、数学が得意で、後輩によく勉強を教えている学生がいたとします。まずは、後輩たちが何に困っているのかを聞いてみます。「問題集の解き方が分からない」「テスト前に何をやればいいか分からない」といった声が集まったら、テスト前の短い勉強会を開いてみる。参加費は安くてもかまいません。人に教えてお金を受け取るまでの流れを、一度通して経験することに意味があります。
最初の1円を自分の力で受け取る経験は、何よりの学びになります。その大切さは、ビジネスは「0」から「1」が最も重要な理由で詳しく解説しています。
周りの反対との付き合い方
起業したいと話すと、周りからリスクを心配する声が多く返ってくるかもしれません。起業を経験したことのない人から見ると、どうしてもリスクの部分が目に入りやすいからです。
心配してくれる気持ちは、ありがたく受け取ってよいと思います。そのうえで、次のことを意識しておくと、周りの声に振り回されにくくなります。
- 反対の理由を具体的に聞いて、自分で確かめられることは確かめる
- 実際に自分でビジネスをしている人の話も聞くようにする
- 在学中に小さく売った経験など、事実で説明できるものを作っていく
また、就職したあとに仕事が忙しくなり、自分のビジネスを進める時間が取れなくなる人もいます。就職を選ぶ場合も、「いつまでに、何を学んで次へ進むか」を先に決めておくと、目的を見失いにくくなります。
どんな働き方が「勝ち組」なのかという考え方そのものについては、大企業・公務員・医者は本当に勝ち組かも参考にしてみてください。
まとめ
- 「一度は就職して社会を学ぶべき」は、目的がなければ遠回りに、やりたいことに直結するなら近道になる
- ビジネスのマナーは本でも学べる。会社員と起業家に求められる力はかなり違う
- 迷ったら「何を学ぶか言えるか」「やりたいビジネスに直結しているか」「生活のお金をどうするか」の3つを自分に聞く
- 在学中は、詳しいことを書き出す→困っている人に聞く→小さく売る、の順で最初の一歩を踏み出せる
まずは、問い1の「その会社で何を学ぶのか」を、一言で紙に書いてみてください。書けたら就職は目的のある選択に、書けなければ、在学中に小さく売ってみることを考えるタイミングです。



